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孤高のマフィア72
「そうだったんですか。張さんのところの方だったとは……!」
「雪吹君のアドバイスのお陰で命拾いをしたそうで……なんと御礼を言っていいか……! 本当にありがとう!」
張からも丁重に頭を下げられて、冰は困ったように面映ゆい顔をしてみせた。
「そんな……」
「まあ私自身、雪吹君と周さんにはしょっぱなから最も失礼なことをやらかした身だから……。他所様のことをどうこう言えた義理ではないんだが、それにしてもキミらはよくよく難儀な目に遭う方々だ。今回もまた拉致されて来たとか……。大変だったね」
そんな中でも臨機応変に対応して切り抜けたという冰の活躍を聞いて、張はえらく感銘を受けたようだった。
「この御恩は忘れないよ。いずれ何かお役に立てることがあれば御恩返しできたらと思っている」
改めて深々と頭を下げる張に、周もまた有り難いと言っては会釈で返したのだった。
「お前さんにはマカオで俺たちが捕まった時に散々世話になったからな。恩返ししなきゃならねえのはこちらの方だ」
そう、鉱山の視察に出掛けた時に周兄弟と鐘崎が拉致に遭ったことは記憶に新しい。その際には張が地元の裏社会を取り仕切っているボスの男に協力を願い出てくれたお陰で皆は無事に救出されたわけだから、まさに助け合いである。偶然とはいえ今回冰が張のところの関係者の力になれたことは良かったと思うわけだった。
「さあ、じゃあ張とも思い掛けず会えたことだし、皆んなでメシに繰り出すとするか!」
こうして一同は張たちも交えて一件落着の昼食会を楽しんだのだった。
一方、丹羽ら警察にお縄を食らった愛莉の男は、闇カジノの経営に携わっていた他にもいろいろと細かなボロが露見したらしく、実刑は免れないようであった。愛莉もまた彼と共に冰らの拉致に加わったとして取り調べを受けたものの、主犯の男にくっ付いていただけということもあり、彼よりは軽い刑で済むようだ。いずれにせよ検察に回されての取り調べが行われるわけで、相応の厳しい日々が待っていることに変わりはない。
拉致に愛莉が関わっていたと知って里恵子はひどく驚いたが、これを機に反省すべき点は改めて立ち直ってくれればいいと思うのだった。
そして何といっても気になるのは今回の発端を作った香山である。
取り調べの結果、愛莉たちと会っていたことは認めたものの、肝心の拉致に関しては知らないの一点張りであった。愛莉の男に渡したとされる二五〇万円という手付金も銀行などから引き出された経緯は掴めなかった。おそらくはタンス預金などから出したのかも知れないが、証拠として残っていないことにはどうにもならない。勾留し続けるわけにもいかず、とりあえずのところは見張りをつけての様子見ということで帰されたとのことだったが、周がそれを知るのはまだ先の話であった。
◇ ◇ ◇
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