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孤高のマフィア62
「既に部下が聞き込みに回ったところ、香山自身もどうやら今回の拉致ともまったくの無関係というわけではなさそうだ。ここの経営に携わっている男と会っていたらしいことも裏が取れている。事情聴取が済んだら詳しい結果を報告する」
別働隊で地元県警の刑事らが調査を進めた結果、拉致を依頼したのは香山で間違いないとの情報が上がってきているらしく、彼の身柄は一旦県警預かりになるらしい。拉致の実行犯との間でどういった取引きがあったのかなどの詳しい事は今後突き詰めて調査が成されるとのことだった。
むろんのこと周にとっては自分の命よりも大事な唯一無二の伴侶をこんな目に遭わされた以上、おめおめと警察の手に引き渡すのは許し難いことであり、どうあっても自らの手で落とし前をつけたいのは山々である。だが、今回の捜索で丹羽に助力を頼んだ以上、一旦は彼らの手に渡し、法に則ったやり方で処するのは致し方なかろう。
ただ、拉致の実行犯は東京から九州までの遠距離を普通のワゴン車で移動したわけである。以前もマカオの張や香港の企業家に拐われたことがあったが、いずれもプライベートジェットを所有しているほどの富豪連中だった。連れ去る手段からしても最低限の安全は予測できていたと言える。
それから比べると今回は移動手段からしてずさんにも程があるというものだ。日本の東の果てから最南端までの遠距離を高速道路を使って拉致するなど、たまたま運良く何事もなかったから良かったものの、事故を起こす可能性もあったわけだ。何より狭い車の中で長時間に渡って窮屈な思いをさせられたわけである。万が一事故などで冰と里恵子が命を落としていたら――と考えると、はらわたが煮えくりかえるなどでは済まされない。
理由はどうあれ、その原因を作った香山を法の裁きだけで赦すわけにはいかない。
世話になった丹羽はもちろんのこと、心やさしい冰自身は無事に解決できた以上報復などという事は望まないであろうが、周には自らの処し方で――というよりもファミリーなりのやり方でと言った方が正しいか――落とし前をつけなければ到底気が治まるわけもない。
そんな思いを呑み込んで、今はともかく沈黙のまま警察に従うしかない。素直に丹羽に任せる周の心の内を理解しているのは同じ世界に生きる鐘崎と源次郎、李ら側近たちのみであった。
そうして丹羽ら警察を見送った後、一同は博多駅近辺のホテルで一先ず身体を休めることにした。
時刻は深夜だ。このまま東京へ戻るよりも先ずは冰と里恵子の心身の疲れを労い養うのが先決である。
今回の件で惜しまず助力を買って出てくれた鐘崎らに対しても、せめてもの詫びと礼の気持ちを込めて周が手配した最上級の部屋で一夜を寛ぐこととなったのである。
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