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孤高のマフィア64
「ああ……うん、そうだよね。俺も字 くらいだったら適当に付けちゃえと思ったけど、刺青はないしイングリッシュネームも咄嗟には思い付かなくてさ。そういえば俺の字 ……! さっきは灰龍 って言ってくれてたけど」
周が助けに入ってくれた時に『字 は灰龍、イングリッシュネームはダブルブリザードだ』と言ったことを思い出したのだ。
「そういやお前には伝えていなかったな。灰龍というのは親父と兄貴と一緒に決めたお前の字だ。主には兄貴の案なんだが、兄貴の黒龍 と俺の白龍 を混ぜ合わせた灰色がいいんじゃねえかってことでな。”雪吹”から連想できるのは白だが、景色という点からすれば見方によっちゃグレー一色の世界ともいえるし、何より兄貴と俺を混ぜた色にすれば三人が揃った時にグラデーションになる。揺るがない肉親の絆を表せればいいと言ってくれてな。イングリッシュネームの方は雪吹冰そのままで芸がねえが、俺が考えた名だ」
「そうだったんだ。まさかお父様やお兄様たちと一緒にそんなことまで考えてくれてたなんて……!」
冰は感激で胸がいっぱいという表情で愛しい亭主を見つめた。
余談だが、父の周隼は例の男も知っていた通りファルコン、そして兄弟のイングリッシュネームは兄の風がゲイル――つまり突風を表していて弟である周はフレイム――焔だ。イングリッシュネームに関しては親子共にひねりはなく、香港名をそのまま英語にしただけである。よって、冰は凍るという意味からフリーズまたは氷そのもののアイスとなるわけだが、周が旧姓の”雪吹”を組み込んでおいてやりたいとの思いからダブルブリザードとしたのであった。冰もまた、その名を聞いただけで亭主の深い思いを理解することができて、目頭が熱くなるのをとめられなかった。
「そっか……ありがとうね白龍。素敵な名前をつけてもらって俺……すごく嬉しいよ。本当にありがとう」
こんな幸せはないよ。その言葉に変えて冰は愛しい腕の中で滲み出した涙を拭ったのだった。
「あの男の人に字 とイングリッシュネームを教えてくれって言われたあたりから正直手詰まりになっちゃってさ。こうなったら本当のことを言って白龍に連絡して確かめてくださいとでも言うしかないかなって思ってたんだ。やっぱり俺って詰めが甘いっていうか……白龍がいないとダメダメなんだなって」
グスグスと涙声で鼻をすすりながら、情けなさそうに肩を落としてみせる。頬に伝わる雫を指で拭ってやりながら、周にとってもまた思うところがあったようだ。
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