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謀反51
それとも自分が盛られた薬物というのは、いずれ時間が経てばいつかは必ず切れる時が来ると分かっているから、それまで待とうということなのだろうか。
あの鐘崎も同じ薬を盛られたが、記憶はきちんと戻ったという。彼より多量に盛られた分、記憶が戻るまでの時間も長く掛かるが、それも残り少なくなってきているのだろうか。
確かに、自分自身でもここへ来た最初の頃と比べると、大分気力も戻ってきたように思う。
(あと少しの辛抱ということか……)
だがやはり戸籍を確かめたいとも思う。様々な気持ちに揺れながら、周はウトウトと眠りについたのだった。
◇ ◇ ◇
周が秘書の冰への想いに悩みながらも、自分の伴侶を確かめる為に戸籍を調べようかと迷っていた頃――。
香港の家族から少々意外な情報が飛び込んできて、周はもとより李や冰らも酷く驚かされることとなったのはそんな折だった。
なんと例の鉱山で周を拉致した羅辰らの遺体が発見されたというのだ。
あの後、各所で落盤が見つかり、ロナルドことロンたちもその修復作業に追われていたようだが、そんな中で崩れた岩の下から倒れている数人が発見されたらしい。坑道内は湿気も多く、あれからひと月以上も時間が経っていたこともあって、その損傷具合は無残なものだったようだ。
すぐに香港の周隼の元へと連絡が入り、DNA鑑定などを行った結果、羅辰とその一味であると確定されたとのことだった。
おそらくは周を置き去りにした後、道に迷って落盤に巻き込まれたものと思われる。自業自得ではあるが、長年ファミリーに属していた者たちの無残な末路に、隼らはやはり驚きを隠せなかったようだ。
ただ、不思議なのはその中に香山の姿がなかったということであった。
報告書類に目を通しながら李が亡くなった者たちの氏名を確認している。
「身元が分かったのは全てファミリーに属していた者たちのようですね。ではあの香山という男は無事に逃げ延びたということでしょうか……」
確かに羅辰たち一行は周と香山を置き去りにして逃げたということだったし、香山自身には冰も坑道内で遭遇していた。彼にはロンが出口を教えたはずだが、そこから先はまた道に迷ったとも考えられる。
「香山さん……無事に逃げ延びてくれていればいいですが」
鉱山でも周を置き去りにして逃げた――例えそのような男に対しても、冰は無事を祈る言葉を口にする。自業自得とはいえ、罪を恨んでも『あんなヤツ死んで当然だ』などとは決して思わないのだろう彼のやさしさが感じられて、周はそんなところにも強く惹かれずにはいられなかった。
やはり戸籍を確かめるのはやめるべきか――ふとそんな思いが過ぎる。
嫁が誰であろうと、この想いを全てこの冰に打ち明けてみたい。包み隠さず、彼に惹かれていることや、彼とは別の誰かが嫁だった場合は酷く動揺してしまうだろうこと、揺れ動く様々な気持ちの全てを冰に打ち明けて、そして彼の意見を聞いてみたい。二人でとことん話し合ってみたい。
冰にとっては迷惑かも知れないが、周はそんな気持ちが抑えられずにいた。
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