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ダブルトロア35

「はー、けどまあ何とか一件落着だな。皆んな、お疲れさんー」  紫月がホッとひと息ついた脇から、 「と、ところで兄さん……あいつらを帰す前に携帯借りた方が良かったんじゃないですかい?」  楊宇に言われて一同はポカンと顔を見合わせた。 「あー、そうね。けど多分……今頃は遼たちもこっちに向かってんじゃね?」  紫月はポリポリと頭を掻きながら舌を出してみせた。優秦が風と会ったとすれば、源次郎や李らが追尾しているはずである。彼らのような精鋭がただで帰すわけがないからだ。それ以前に借りた携帯から周兄弟らに発信すれば履歴が残り、素性に繋がらないとは限らない。如何に異国とはいえ、マフィアトップのシークレットナンバーを安易に暴露するのは言語道断、実際そちらの方が面倒といえるわけだ。 「おそらくだが――もうちょいで迎えが来るはずさ」  とにかくは隣の棟に避難している冰と美紅に落ち合うことにして、一同は迎えが来るのを待った。 「それにしても紫月君の技はすごかったですね! 私も焔老板から話には聞いていましたが、実際目の当たりにして驚いてしまったよ」  あんなことが実際にできるものなのかと、鄧がほとほと感心顔で言う。 「人間の身体構造から考えても驚異的だ。体幹がどうなっているのか実に興味深いですよ。汐留に帰ったら是非とも研究させて欲しいくらい!」  さすがに医者である。考えることが常人とは一味違うのだろうが、まるで少年のようなワクワクとした顔でそう言われると、先程までの通訳ぶりが思い出されてまたもや吹きそうにさせられる。 「いや、何ちゅーか、上手くいくかは正直賭けだったんスけどね。失敗しても地面に飛び降りりゃいいだけだし、一か八かでやってみたんだけど、曹先生と楊宇さんの運転の腕が最高だったから!」  だから成功したのだと言う。 「それよか俺は鄧先生のユーモアに参っちゃいましたよ! もうあの通訳ったら……! 曹先生じゃないっスけど、いつ吹き出しちまうかって堪えるのが大変だったし」  紫月が思い出し笑いをすると同時に曹も同じくと言って腹を抱えた。 「いつもの鄧浩からは考えられん言い草だったからな。こんな時に笑かすんじゃねえと、平静を装うのに苦労させられたぜ!」 「おやおや、そうでしたか。これは失礼」  しれっと鄧が言ったのに、また笑わされる。 「しかし……とにかく丸く治ってくれて良かった。鄧浩の言うように俺も紫月君の技には驚かされたぜ! あんなダイナミックな芸当を咄嗟にやってのけるとはさすがに鐘崎組の姐さんだ。あの連中もいっぺんでおとなしくなっちまった」 「ええ、本当ですね」  そんな会話を横目に楊宇も感心顔だ。 「俺も……兄さんがこっちに飛び移って来るって思った時は度肝抜かれましたぜ!」  それこそ先程の暴走グループの面々さながら敬服と憧れのような眼差しで瞳を輝かせている。  皆に持ち上げられて、紫月はポリポリと頭を掻きながらも、照れ臭そうに笑ってみせた。

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