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紅椿白椿12

 そうして組に帰ると、三時のお茶の時間である。ちょうど源次郎が湯を沸かして準備の最中だった。 「源さん、たーだいまぁ! 今日の茶菓子仕入れて来たぜ」 「姐さん、お帰りなさいやし! ご苦労様です。自治会はどうでした?」 「うん、夏祭りの準備のこと決めてきた。今年はウチがイベント担当だからさ」 「そうですか。お疲れ様ですな」 「これ、親方たちのお茶菓子な。春限定の草大福が出てたから俺と源さんのも、ほら!」  ニカっと笑って袋を掲げてみせた紫月に、源次郎もまたあたたかい気持ちにさせられるのだった。 「それはそれは! 有難いですな」  受け取った袋から茶菓子を取り出して皿へと並べていく。その中に普段は見掛けない磯部焼きを見つけて、源次郎は紫月を見やった。 「磯部焼きとは懐かしいですな」 「あー、それな。親方ンところの若いのにどうかと思ってさ。ついでに俺らの分も買ってきたんだけど唐辛子が効いてて旨そうだべ?」  その脇では春日野が支度を手伝いながら、 「若いヤツには腹を満たせる物がいいだろうって姐さんがお選びくだすったんですよ」  それを聞いて源次郎もまた、和菓子屋の店主同様その気遣いに笑みを誘われたのだった。 「せっかくですから今日は我々も親方たちと一緒にお茶に致しますかな。姐さん、如何です?」 「おー、いいね!」  クッと親指を立てて笑った紫月に、源次郎も春日野もポカポカと心温まる気持ちがして、何でもない日常がとても幸せなものに思えるのだった。  そんな気遣いに親方と新入りの小川が感激したのは言うまでもない。特に小川は間近で見る姐さんの姿にえらくドキドキとさせられてしまったようだ。  わざわざ自分たちの為に茶菓子を選んでくれたことはもちろんだが、話してみると気さくで、とにかく明るい。一緒にいて楽しい気分になると同時に、間近で見る紫月があまりにも綺麗な顔立ちなので、何だか直視することも憚られるといった気にさせられてしまったのだ。 (ふあぁ……野郎でもこんなに綺麗な人っているもんなんだな……。初めて見た時も超絶イケメンとは思ったけどさ……。何なんだ、このむちゃくちゃ綺麗な肌っつーか、指も細くて長くてスラーっとしてるし、俺とは月とスッポンっつーかさ。髪もふわっふわで人形みてえだ……)  野郎同士で結婚なんてと思っていたが、これならうなずけるというか、あの若頭さんの気持ちも分かるなぁなどと妙に納得させられてしまう小川であった。  しかもこんなに綺麗なのにまったく気取っていない。話しやすいし、新入りの自分に対しても皆の話題に馴染めるようにと積極的に話し掛けてくれている。

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