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紅椿白椿47

「紫月……! おめえってヤツは……本当に……」  声も腕も何もかもが小刻みに震えている。言葉にならないその様からは鐘崎が今どんな気持ちでいるのかがはっきりと分かるようだった。 「な、遼。俺さ、俺もお前と一緒にいろんなこと背負って生きていきたい。お前が覚悟の証としてこの紅椿を背負ってくれたように、俺も自分の気持ちを目に見える証として背負いたい。だからもしよかったら……その、俺ン肩にお前のと対になる白い椿を贈ってくれねえか」 「紫月……ッ!」  堪らずに鐘崎はもぎ取る勢いで紫月の唇を奪った。それこそ激しく熱く濃い口付けが獣のように愛する者を奪っていく。  長い長い接吻の後、ゆっくりと唇を離すと鐘崎は言った。 「ああ、ああ……もちろんだ。おめえのその気持ちを聞けただけで俺は……どうしようもねえほど幸せだ。だがその前に……おめえの親父さんに相談させてくれねえか。親からもらった大事な身体だ。それを弄ることになるわけだから、まずは親父さんのお気持ちをうかがってからにしたい」 「遼、うん。ありがとな。んじゃ親父たちの意見も聞いて、皆んながいいって言ってくれたら考えてくれよな」 「ああ、そうしよう」  こんなにも嬉しいことがあるだろうか。今まで女性たちへの対応にしても自治会の役目にしても、何もかもを任せきりにしているこの紫月が、自分と対になる覚悟の証を共に背負わせてくれとまで言ってくれた。  もしも父親たちが反対して実際はその肩に白い椿が入れられずとも、鐘崎にとってはその気持ちだけで有り余るほどであった。 ◇    ◇    ◇  数日後、紫月の実家の道場が休みの日に合わせて、鐘崎と紫月は父の一之宮飛燕を訪ねた。実父の僚一にも道場へと来てもらうように頼み、二人の父親の目の前で自分たちの思いを打ち明けることにしたのだ。  二人にとってとても大切な事柄であるゆえ、服装にも気を遣った。結婚の披露目の時に着た紋付袴の正装を選んで二人は父親たちの前で姿勢を正したのだった。  驚いたのは父親たちだ。その出立ちを見ただけで、おそらくは息子たちにとって何か非常に大切な事柄なのだろうと察することができる。だがそれが何であるのかはさすがの父親たちもすぐには想像できなかったようだ。 「親父さん、親父。本日は私どもの為にお時間を割いていただき感謝いたします。実は――」  二人は畳の上で丁寧に両手をつきながら、鐘崎が事の次第を話し伝えた。 「私にとっては紫月のそういった気持ちを聞けただけで有り余る幸せです。刺青を彫るということは少なからず身体に傷をつけることに他なりません。ご両親からいただいた大切な身体です。親父たち二人のご意見をうかがって、賛成できないということであれば勝手をすることは決して致しません」  何をおいても親の意を尊重したいと言って丁寧に頭を下げた息子たちに、二人の父親たちは同時に瞳を細めてみせた。

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