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紅椿白椿56

「実はな、この記念の品には焔と冰も賛同してくれてな」  源次郎がその大きな桐箱を僚一と飛燕の前へと差し出すと、二人の父親たちが揃って手を携えながら蓋を開けた。 「……! こ……れは」 「す……っげえ……!」  思わず敬語も吹っ飛んでしまうくらいの勢いで目をまん丸くしてしまった。なんと桐箱の中から出てきたのは対となる二振りの日本刀だったからだ。ほぼ同寸だが、男刀の方が女刀よりもわずかに太くて大きい。雄々しいくらいに見事な夫婦刀であった。  そして、その握り手となる目貫(めぬき)部分にはそれぞれに紅椿と白椿の紋様が組み込まれていた。それだけでなく、(つば)にはブラックダイヤとアメジストがはめ込まれている。 「鐔と目貫の部分は焔と冰からの贈り物だ。デザインも二人で考えてくれたのだ」  鐘崎と紫月は既に言葉にならないくらいで硬直状態だ。まるで武者震のように小刻みに身体を震わせながら瞳を潤ませた。 「氷川、冰……こんな時でさえそれこそ上手く言葉にならねえ……。こんな俺に……本当にすまねえ。有り難くて嬉しくて震えがとまらねえ……」 「俺もだ。俺も遼とおんなし……。本当に何て言っていいか……おめえらの、それから親父たちの気持ち、心底胸に刻んで、恥じねえように遼と一緒に生きてきたいって思う!」  感激に瞳を潤ませる二人の前に、源次郎がまた別の今度はもう少し小さめの桐箱を差し出した。 「こちらは私から心ばかりですが」  それは夫婦の盃であった。 「組員たちへのお披露目の際には儀式として盃を交わしていただきますので、その際にでもお使いいただけたらと思いましてな」  艶やかな塗りで仕立てられたそれにもまた、小さな紅白の椿が彩られていた。結婚の披露目や入籍の際にも盃は交わしたものの、二人が覚悟を背負って入れた対の彫り物の披露目だ。記念になる物をと思って源次郎が気遣ってくれたのだろう。  また、綾乃木からは先程父親たちから贈られた紋付きの羽織に合わせて立派な組紐でできた羽織紐が贈られた。彼の実家は京都だから、それこそ昔からの馴染みの老舗店でオーダーしてくれたものだそうだ。 「親父さん方が羽織をお贈りになられるとうかがったので」  形は揃いだが、鐘崎用のは黒に近い濃いめの蘇芳色、紫月にはそれより少々明るめの藤紫色だった。紋付き袴が深い墨色だから、差し色としてとても品良く似合っている。何より紫月の名前に象徴される紫を基調としていて、綾乃木の二人を祝う気持ちが充分に感じられる贈り物だった。 「源さん、それに綾乃木さんには彫り物を担当していただいた上にこのような有難いお心遣いまで……。本当に何と申し上げたらよいか……ありがとうございます」  皆のあたたかい気持ちを胸に、より一層精進いたして参る所存ですと言って、二人は気持ちを新たにしたのだった。 ◇    ◇    ◇

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