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紅椿白椿57
それから一週間後の大安吉日、組員たちへの披露目の日がやってきた。周と冰、それに綾乃木や庭師の泰造と小川もその席に呼ばれて、鐘崎組では朝から荘厳な雰囲気に包まれていた。ここ一週間ほどはどんよりとした梅雨空続きであったものの、朝から雲一つないこの時期には珍しい晴天となり、天候までもが二人を祝ってくれているようだと言って、組員たちの間では興奮に湧いていた。
午前十時、幹部から末端の組員たちまで全員が和服姿で大広間に整列した。まるで襲名披露のような雰囲気の中、鐘崎と紫月が迎えられ、二人の肩に咲いた対の椿が披露される。
まずは鐘崎からだ。
若頭のそれは皆よくよく周知だが、普段は滅多に目にする機会もない。新参の組員たちの中には初めて目の当たりにする者もいたようだ。
先日父親たちから贈られた真新しい紋付き袴姿は実に荘厳だ。その深い墨色の紋付きの袷を開いて片方の腕を出し、紅椿の入った方の肩を披露するように半身があらわになると、大広間からどよめきが湧き起こった。
続いて紫月もまた羽織と着物の袷を開いて半身の肩をさらすと、そこには咲いたばかりの白椿が姿を現した。
「おおお……!」
一層大きなどよめきの後に、組員を代表して幹部の清水が鐘崎らの前へ出て祝辞を述べた。
「若、姐さん、おめでとうございます! 我々鐘崎組組員一同、心よりお祝いとお慶びを申し上げます!」
祝辞が済むと次には固 の盃の儀式が行われた。先日源次郎から贈られた夫婦盃が三宝に乗せられて二人の前に置かれる。御神酒を注ぐ役目は源次郎が行った。
夫婦が互いに杯を飲み干すと同時に大広間には割れんばかりの拍手が巻き起こった。組員たちに次いで後ろの方の位置でその様子を目にしていた庭師の小川も、感激にその身をブルブルと震わせながら胸前で両手を合わせていた。
「親方、すっげえっスね……。何ちゅーか、それこそ映画の世界みてえだ」
「ああ、そうだな。実にめでたいことだ」
誰もが若頭と姐さんの、より一層の発展と幸せを願ってやまなかった。
盃の儀式が済むと、いよいよ祝いの宴の始まりだ。まずは向夏にふさわしい鮎を模った和菓子と清流に見立てた淡い水色の氷砂糖でできた添え菓子が全員に振る舞われ、それに合わせて薄茶が点てられた。
点前を担当したのは組員の徳永竜胆だ。彼の実家は高名な茶道の家元なので、全員の前で直に点前をしたのだが、さすがにその所作は見事であった。徳永もまた、このような大役を仰せつかったことに、緊張ながらも誇らしい気持ちでいっぱいだったようだ。
そんな彼のサポート役として、普段は指導に当たっている兄貴分の春日野菫が、今日はいろいろと手助けの役目を買ってくれている。徳永にとってはそれ自体にも感激で昇天するほどだったようだ。
そうして茶の湯が済むと、祝膳の前に今度は周と冰から祝辞と共に余興が贈られた。
皆の整列する大広間中央に真っ赤な毛氈が用意され、一旦中座して着替えた冰が粋な着物姿で現れると、組員たちからは感嘆のどよめきが上がった。なんと、冰が賭場師として壺振りを披露してくれるというのだ。
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