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慟哭2

 それはとある真夏の午後のことだった。  鐘崎組の事務所に入った一本の電話――組員が取った受話器の向こうからは生真面目そうな女性の声がこう告げた。 『もしもし、私この夏から自治会で役員をすることになった田島と申します。最近引っ越して来たばかりの者で、突然のお電話失礼いたします。実は夏祭りのお手伝いの件で教えていただきたいことがありまして、自治会長さんからこちらの鐘崎様に連絡するよう言われました。担当の方がいらっしゃいましたらかわっていただけますでしょうか』  電話を受けた組員は、何の疑いもなくすぐに内線で紫月へと繋いだ。自治会に関する事柄は組姐の紫月が請け負ってくれていたからだ。 「姐さん、自治会の方から夏祭りのことでお電話です」  紫月もまた、疑うわけもなく明るい声でその通話を受け取った。 「お電話かわりました。お世話になっております、鐘崎です!」  ところが――だ。  受話器を耳にしたものの、次第に明るかった笑顔が表情を失くしていった。

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