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慟哭10
「それから気になる入国者が少々――。この二人とは別の飛行機でしたが、傭兵経験がある外国人の名前が数名、やはり辰冨鞠愛・大河内らと同じ日に入国しています。国籍、入国路線共にバラバラですが、調べたところ現役時代は同じ部隊、もしくは同期入隊として顔見知りだったろう者たちが見つかっています。滞在先も大河内らと隣接したホテルに泊まっているようです」
李の報告が済むと、今度は周が続けた。
「おそらくだが、今回のことを遂行するにあたって大河内ってヤツが掻き集めた兵隊の線が強い。確実に拾えただけでも八人は固い。あの女は鐘崎組の素性を知っている。とすれば、大河内ってのも相手が裏の世界で名だたる鐘崎組と知ってある程度頭数を揃えたのかも知れん」
傭兵部隊ということは武装しているのは明らかだろう。
「もしかしたら爆弾というのもただの脅しじゃねえのかも知れん――急ごう!」
鐘崎はそれこそ居ても立っても居られないといった調子で、一同は先を急いだ。
少し走るといよいよ現場の倉庫が近付いてきた。
周囲には普通に稼働している倉庫もあり、荷運びのトラックなども出入りしている。肝心の倉庫はどうやら使われてはいないのか、他と比べるとトタンの塗りが剥がれ落ちていたりと長いこと手入れがなされていないふうである。目の前の岸壁には貨物用の船舶などが停まっていて、積荷などでクレーンが轟音を立てており、これでは中で何が起こっているのかなどが聞きづらい状況となっていた。夜間ではなく、わざわざ昼間の犯行を選んだ理由はそういった目的なのかも知れない。
「木を隠すなら森の中――ってことか」
作業の轟音と共に誰もが周囲を気に掛ける様子は全くと言っていいほど見受けられない。
「ここで間違いねえな――。長いこと使われていねえみてえだが……」
だが周辺にはワゴン車が数台停まっている。おそらく敵が乗ってきたものだろう。そのナンバーを確認して、李がすぐさま探査にかける。
「犯人たちのもので間違いありません! 大河内が手配したレンタカーのナンバーと一致しました!」
ということは、紫月は中にいる可能性が高い。
仮にピアスのGPSに気付かれたとして、それを外して倉庫から移動したとすれば、おそらく車は見当たらないはずだ。だが実際には数台が停まっている。敵共々ここから動いてはいないということだ。
倉庫正面のシャッターは下ろされていて、中の様子は分からない。少し離れた位置で車を降り、まずは倉庫周囲の様子を探りにかかった。
裏口にも出入り口が確認されたが、表同様シャッターが下ろされていて、双方共に頑丈な錠が施されているようだ。壁面にも外階段のようなものは見当たらなかった。
「……チッ、完全密室にしやがったか」
所々、屋根に近い所に天窓のようなものがあって、唯一そこからなら中の様子が覗けそうだ。
「あの窓から確かめるしかねえ」
だが相当な高所だ。さて、どうやって登ろうか。雨樋など足場になるようなものも皆無の真っ平らな壁面だ。
「ドローンにカメラを積んで飛ばしましょう」
「そうだな。急ごう!」
気づかれる可能性が高い上に、角度によっては確実に中の様子が窺えるかは不安なところだが、他に方法はない。
鐘崎と源次郎らがドローンの準備をしていると、後ろから見慣れた人物がやって来て驚かされる羽目となった。何と、庭師の泰造と小川が源次郎らの後を追ってやって来たのだ。
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