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慟哭11

 今日は朝から泰造らも中庭の剪定に顔を出していた。紫月が姿を消したことで組が大騒ぎになっていたのを彼らも心配していて、これはただ事ではないと思い、密かに後をつけて来たのだそうだ。 「親方……、小川も……お前らどうして……」 「若さん! そんなことより姐さんは無事なんスか! 何か俺らに出来ることがあれば何でもします!」  小川は必死だ。 「相手は武器を所持している可能性もある。気持ちは嬉しいがここは危険だ。お前らは車に戻るんだ」  ところが小川は引き下がるつもりなど更々ない様子だ。 「この中に姐さんが捕まってるんスか?」  何で踏み込まないんです? と、意気込んでいる。 「爆弾が仕掛けられているかも知れんのだ。それに十中八九、敵は銃を所持している可能性が高い」  鐘崎に続いて源次郎もすぐにここを離れろと言ったが、小川はまるで聞いていない。 「あの窓――あそこからなら中が覗けそうっスね」  小川は言うや否や自分たちが乗って来た車へと駆け戻ると、その肩に脚立を抱えて戻って来た。 「俺が見てきます!」 「ちょ……待て! お前、いくら何でも高さが足りん……。今ドローンで様子を……」  確かに何もないよりは足場となりそうだが、巨大な倉庫の壁面の前では脚立を最大限に伸ばしても焼石に水だ。ところが小川はまるで動じていない。 「大丈夫ス! この高さなら何とか登れます。ドローンよりか俺の目の方が確実っス!」  せっせと脚立を広げて壁に掛け始まった。 「親方、押さえててください!」  そう言うと少し後ろに下がって身構えた。助走をつけて駆け上ろうというのだ。  それを見てとった若い衆らがすぐに親方と共に脚立を支えるのを手伝った。小川は身軽な動作で駆け出すと、いとも簡単という感じに脚立を踏み台にして壁面を駆け上って行った。まるで手足に吸盤でもついているかのような驚くべき身軽さだ。なんとか窓の縁に手を掛けると、そのまま腕の力だけで上半身を持ち上げて、中の様子を覗き始める。 「……何てヤツだ。一等最初に彼がお邸に忍び込んだ際には壁を乗り越えて侵入したと聞きましたが、あれではうなずけますな」  源次郎が目を丸くする傍らで鐘崎も同様に驚きを隠せずにいた。  だが正直なところ有難いのは確かだ。鐘崎は万が一小川が落下した場合に備えて、すぐに受け止められる体制を敷くと共にその報告を待った。

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