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慟哭14

 中には鉄パイプやヌンチャクのような物を振り回してくる者もいる。 「――ちッ、丸腰相手にそうくるかよ……。マジで粋も情けもねえ奴らだな……」  ヌンチャクを避けながら足元を蹴り飛ばして、相手が転んだ隙にそれを奪い取った。 「は――、氷川でもいりゃあ上手く使うだろうが、俺にとっちゃ宝の持ち腐れってトコだな」  ヌンチャクなど子供の頃にオモチャで遊んで以来だ。せめて拳法でも身につけておけばよかったかと苦笑いがとまらない。――と、今度はサバイバルナイフのようなものを振り回されて、寸でのところでかわしたものの、ジャケットとシャツの一部に当たって入れたばかりの白椿があらわになった。 「……っと! 舐めたことしてくれっじゃねえの」  そうだ、例えここで敗れて命を落とすようなことがあったとしても、この白椿の花に傷をつけることだけは勘弁ならない。  鐘崎が紅椿を背負った覚悟までもが穢される思いがするからだ。  紫月は破れたジャケットを脱ぎ捨てると、肩の白椿を守るようにそれを縛りつけた。 「ふ――極道を舐めんじゃねえ」  多勢に無勢、しかも理不尽この上ない逆恨みが原因で命をくれてやるほど人が好くはできていない。  乾坤一擲、断崖絶壁を背にしようと譲れない思いはあるのだ。仄暗い瞳に覚悟の炎がユラユラとゆらめき、襲い掛かってくる男たちを次々にかわしていった。  それを目にした鞠愛が発狂したように金切り声を上げる。 「椿……ですって! こいつにも同じ刺青が入ってたなんて……遼二と二人でお揃いだとでも言うつもりッ!」  ワナワナと震えながらも目を吊り上げては唇を噛み締めている。 「冗談じゃないわよ! どこまでアタシの気を逆撫ですれば気が済むのッ! ぶっ殺してよ! 早くしなさいったらッ!」  半狂乱で焦れる様子に、ついぞ指示役の男が拳銃を取り出した。  確かにこのままでは戦況よろしくない。たった一人を相手に敵わなかったとあっては、それこそ立つ背がなくなるというものだ。紫月らの乱闘が続く中、ビシュっという音と同時にわずかな煙が立ち上り、弾丸が倉庫床のコンクリートをえぐった。サイレンサーが付いているのだろう、爆音はしないまでも威嚇の発砲である。 「冗談だべ……? 今度は飛び道具かよ……」  さすがにまずいと思って、紫月は咄嗟に木箱の陰へと飛び込んだ。  弾丸は容赦なく立て続けに木箱を抉り取っていく――。 「クソッ……正直半分は脅しと思ってたけどな。マジで本気ってわけ……いよいよやべえか――」  ここに呼び出された時点では、ある程度罵倒して脅せば気が済むだろう程度に考えてもいたが、どうやらそれだけで済む話ではなさそうだ。弾が当たれば、それが擦り傷だとしても勝機は薄くなる。即死は免れたとしても、腕や脚などにある程度まともに食らえばその後はあの人数相手に応戦することが困難となってくる。寄ってたかって殴られるか蹴られるか、あるいはもう一発とどめの弾丸を撃ち込まれるか――どちらにしてもほぼお陀仏だろう。  ふと、脳裏に愛しい亭主の顔が浮かぶ。  遼――もしかしたらこれっきりツラを拝めねえかもな……。  彼を一人残して先に逝くことを想像すれば、すまないと思いつつもこれまで共に過ごしてきた日々が走馬灯のように頭に浮かんでは万感込み上げる。

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