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慟哭13
鞠愛の側には日本人らしき男が立っていて、どうやらここにいる連中の中では一番権限を持っていそうな顔つきをしている。鞠愛のことは立てているふうなので、察するに父の辰冨の部下か何かなのだろうと思えた。他はすべて外国人のようだから、その男の伝手で連れて来られた程のいい兵隊といったところか――おそらく日本語は通じていないのだろう。
そんな彼らが襲い掛からんとジリジリにじり寄っては周りを取り囲む。紫月は英語に切り替えると、彼らに向かってこう訊いた。
「あんたらは――俺とは会ったこともねえ初対面だな。互いに恨みはねえはずだ。それでも俺を殺ろうってか?」
すると男たちはクスッと笑いながら飄々と答えてよこした。
「確かに初対面だし、てめえに恨みはねえな。だが俺たちにとっちゃそんなこたぁどうでもいいんだ」
「その通り! 要は金さ。俺たちゃ、そこの女と金で契約して仕事を請け負っただけだ」
「高額の報酬を得る代わりにゃ仕事をしねえとだろ? 何もタダで金だけ貰おうなんて下衆な考えは持っちゃいねえ」
交互交互にそんなことを言ってよこす。
「は――仕事ね。つまりは義理も人情もねえってわけな?」
紫月がそう返したと同時に攻撃が飛んできた。それを身軽にかわしながら苦笑が浮かぶ。
「あ――そ! だがこっちもみすみす殺られるわけにゃいかねえんで――なッ!」
とりあえずのところ向かってくる敵は三人、互いに素手なら何とかできそうか――。ただし、他にもまだ五、六人が鞠愛の後方で待機しているといった具合だ。目の前の三人を片付けたとしても次から次へと加勢に出てくるだろう。
唯一彼らの頭と思われる男がどの程度デキるかは分からないが、彼を抜いても全部で七、八人はいそうだ。いや、もっとか。仮に十人として、さすがに一人で相手をするには厳しいところだ。日本刀でもあればまた話は別だが、今は丸腰だ。
「――といって、むざむざやられるわけにもいかねえからー」
紫月は合気道の技で攻撃をかわしつつ空手で男たちを追い込んでいった。
「クソッ! なかなかにやりやがる!」
「しゃらくせえ! 優男のくせによ!」
紫月は見た目だけでいえば細身で簡単に捻り潰せそうな雰囲気だ。誰もが最初の内はそう思っていたのだろう。余裕の態度で薄ら笑いを浮かべていた男たちも段々と真顔になってくる。それを見ていた鞠愛らも動揺した様子だ。
「何よ! 大の男が揃いも揃って情けないったらないわね! 相手はたった一人じゃないの! あれで強靭って言えるのッ!」
指示役の男に向かってそう罵倒している。このままでは立つ背がないと思ったのか、ついには後続部隊がまとめて襲い掛かってきた。
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