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慟哭20

 その後、周は医療車以外の側近たちを汐留へ撤収させると共に、李ら数人を連れて一旦鐘崎組へと立ち寄ることにした。幸い鐘崎にも紫月にもこれといった致命傷はなくて済んだものの、医療車で一通りの手当ては必要だ。彼らの方には源次郎に付き添ってもらい、周らは乗って来た後続車で組へと向かう。その車中では冰が心配そうな表情を見せていた。 「ねえ白龍……あの人たち……あのまま放って来ちゃって平気なの?」  犯人が逃げてしまったり、挙句は再び紫月を襲いに来たりしたらといった表情で、冰が不安げにしている。 「心配には及ばん。源次郎氏が警視庁の丹羽へ通報済みだ。すぐに警察が駆けつけるだろう」 「でもその間に犯人が逃げちゃったりしたら……」 「逃げようが関係ねえ。放っておいてもヤツらは自滅する。カネにとって一之宮を奪還できた時点で事は既に完結しているんだ」  どういうこと? と、冰が不安顔で首を傾げる。 「カネがあの場の全員を葬らずに生かした理由だ。警察が介入すれば、いずれはヤツらの口から今回の全貌が知れる。大河内って野郎もあの女にそそのかされて実行に至ったことを暴露するだろう。大河内と一之宮の間に直接の接点が無いのは明らかだ。つまりヤツには一之宮を殺害したい動機がないことも調べればすぐに分かる。首謀者はあの女だということがすぐに割れるということだ」  仮に女が逃げたところで行き場などないも同然だ。 「それ以前にあの女にちょっとでも脳があるなら、大河内の口から真実が割れるのを黙って見ていられるかどうかというところだろうな」 「つまり……どういうこと?」  冰には何が何やらさっぱり分からないらしい。 「俺たちが引き上げた倉庫内には意識を失った男連中と大河内、それにあの女がいるのみだ。女以外のヤツらは全員気を失っている。少し頭が切れりゃ、警察が到着するまでの間に大河内だけでも始末しようと考えても不思議はねえ」 「始末って……? あの女の人が仲間を手にかけちゃうかも知れないってこと?」  冰は驚いている。 「例えばの話だ。警察が到着する前にだな、女があの場の全員をぶっ殺しちまえば、首謀者が誰だったのかということを知る者はいなくなる。あの女が主張するように脅されて仕方なく加担したという道理は通るかも知れねえ。だがさすがに十人もの男を始末する度量があの女にあるかといえば、普通に考えれば無理があろうな。だが大河内一人くらいなら――とは考えるかも知れない」  まあ女にそこまでの気概があるかどうかは分からないが、仮に鞠愛が大河内を手にかければ完全な殺人罪となる。あの鞠愛のことだから正当防衛を主張するかも知れないが、他の男たちからの証言でその言い分はすぐに崩されるだろうことは目に見えている。

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