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春遠からじ27

「もしもそれが成功すれば、ヤツに加担している裏の世界の組織にも大金が転がり込むって算段だろう。逆に言えば、その不倫相手の男に社を乗っ取らせた後は用済みになって、いいように操り人形とされるか――あるいは始末されねえとも限らんな」 「――ッ、どいつもこいつも他人の作り上げた物を掻っ攫うことしか脳のねえクズばかりだ。是が非でも子涵の父親と社を守り抜く必要があるな」  とにかくはシステムの発表日まであと二日だ。その間を何とか凌がねばならない。 「父親の警護はメビィらのチームに任せるとして、今現在敵がこの香港の何処に潜入しているかを割り出すことを急ごう」 「そっちは今、李と曹さんで当たってくれている。入国経路が分かり次第、ヤサを突き止める」  鐘崎と周らが尽力していたそんな時だった。子涵少年が姿を消してしまったことが発覚して、一同は更なる大問題を抱えることとなった。昨夜彼を寝かしつけた周の継母が朝になって様子を見に行ったところ、ベッドはもぬけの空だったというのだ。 「バスルームやクローゼットの中、それにプールや他の階も捜したんだけれど見当たらないのよ……」  継母の香蘭は責任を感じて酷く心配している。こんなことなら無理にでも一晩付き添ってやるべきだったと涙まで浮かべて悔やむ様子に、誰もが彼女の責任ではないと宥める。  だがいったい何処へ行ってしまったというのか――。鐘崎らはすぐさまメビィに連絡を取って、子涵少年が父親の元へ戻っていないかを確かめたのだが、何とその父親自身も姿を消してしまったらしく、メビィらの方でも大騒ぎになっているとのことだった。  彼に持たせていたGPSの機器は外されて部屋のテーブルにあったことから、父親自らが置いて出た可能性もあるという。 「親子して行方をくらましただと……!? いったいどうなっていやがる」 「メビィの話では他所から侵入された形跡は見当たらないそうだ。秘書の女性にも確認したが、侵入者があったというわけではなさそうで、彼女が気がついた時には既に父親は部屋にいなかったと――」  ということはやはり自ら出て行ったということか。わざわざGPSを置いて行っていることから、行き先を突き止められないようにと敵からの指示があったのかも知れない。 「考えられるのは子涵も父親も誰かに誘き出されたということだろう……。おそらくは同じ相手か」 「確かあの坊主は携帯電話を所持していたな? とすれば、密かに誰かからメッセージなりが入り、誘い出されたという線が濃厚だが――」  とにかくはホテル内の防犯カメラ映像を当たることにする。と同時に、鐘崎が子涵少年に書かせた父親宛ての手紙に仕込んだGPSの現在地を追うことにした。 「あの親父さんが坊主の手紙を持って出てくれていればいいが――」

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