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春遠からじ29
「女人街か――子供一人でも分かりやすい場所を選んだものだ。そこから先の足取りは掴めんな……」
八方塞がりに鐘崎が肩を落としたものの、タクシー会社のドライブレコーダーを当たっていた周から再び吉報が寄せられた。
それによると女人街の入り口で待っていた女が子涵を連れてレンタカーらしき車に乗り込むところが確認できたというのだ。
『今、レンタカー会社でナンバーを当たっている。借りた者の氏名はすぐに割り出せるだろうが、おそらく偽名だろう。とにかくはヤツらが向かった方向の防犯カメラを片っ端から当たるしかねえ』
とはいえ、足取りを追うだけで膨大な時間と労力を要すのは固い。いずれにせよ八方塞がりの窮地の中、源次郎が根気良く追っていた手紙のGPSに一瞬反応が見つかって、事態は一気に好転することとなった。
「GPSが示した場所が判明しました。白泥から少し入った山中のようです!」
「白泥か――。あの辺りは確か夕陽が絶景だとかで有名だったな。観光客も少なくないが、そこから山中へ入ったとなると民家などはあまりないはずだ。人目を避けて始末され兼ねない!」
鐘崎らはメビィのチームと合流することにして、すぐさまGPSが示す地区へと急いだ。幸い周の本拠地である為、武装の点でも事欠かないのは有り難かった。
◇ ◇ ◇
目的地へと向かう車中では王 親子の救出に向けての手順が話し合われていた。鐘崎はこれまでの調査で分かってきたことをメビィらに打ち明けて、おそらく本星は父親の元妻だった女の不倫相手という線が濃いだろうことを告げた。
「敵の目的は明後日発表されるというシステムだ。そいつを手に入れた後でCEOを始末し、社ごと乗っ取る算段でいるはず――。おそらくは今頃CEOからシステムの在処を聞き出そうとしているだろう」
「じゃあCEOがシステムの保管場所を明かさなければ一先ず殺されることはないというわけね?」
メビィが訊く。
「その為に子涵 少年を餌に使うつもりだろう。素直に吐かなければ息子を殺すと脅すに違いねえ」
既に猶予はない。現場へ急ぐ傍らで、メビィがふとこんなことを口走った。
「……ねえ、こういうのはどうかしら。今現在子涵 君と一緒にいるCEOは――実は身代わりの別人だっていうことにするの。現場へ着いたら、そこにいるCEOはアタシたち警護班の一員で、本物は自分だって主張する。本当は警護班が――つまりアタシたちのチームだけど――危険だから身代わりになると言ったけれど、一旦は承諾したものの、やっぱり息子が心配でいてもたってもいられず自分が駆け付けたと言えば、ひょっとしたら敵も人質の交換に応じてくれるかも知れないわ」
すぐにチームの中からCEOの体格に近い男をピックアップして変装をさせるというメビィに、鐘崎はその役目を自分にやらせてくれないかと申し出た。
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