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春遠からじ37
「兄貴! ご助力に感謝します」
「風 さん、ありがとうございます!」
周と鐘崎が兄の風 に礼を述べると、
「いや、お前さん方もご苦労だったな。よく解決に導いてくれた」
彼もまた一件落着に笑顔を見せた。
一行が邸を出ると、そこへメビィに連れられて子涵 が逸った顔つきでやって来た。彼は一目散に鐘崎のところへ駆けて来ると、その大きな懐に抱き付くようにして飛び込んで来た。
「遼兄ちゃん! ありがとう……ありがとう助けに来てくれて……! 僕、昨夜は兄ちゃんのこと嫌いだなんて言って……ごめんなさい……!」
瞳いっぱいに大粒の涙を溜めながらしがみ付いてくる。
「子涵 、礼を言うのは俺の方だ。さっきはよく調子を合わせてくれたな。お陰でヤツらを欺くことができた。お前さんの勇気のお陰だ」
子涵 がいち早く鐘崎の思惑を読み取って本物の父親だと認め、調子を合わせてくれたからこそ、すんなりと事を運ぶことができたわけだ。幼いながらもその理解力と勇気に感服すると共に心から感謝すると言って、鐘崎はもちろんのこと、風 や源次郎らその場の全員が絶賛した。
「あの……それから……おじさんもありがとう。遼兄ちゃんと一緒に僕たちを助けてくれて……」
子涵 は周にもそのように礼を述べたのだが、その後がまずかった。隣に立っていた周の兄・風 にも頭を下げたのだが、その際投げ掛けた言葉が――
「お兄さんもありがとうございます」
だったのだ。
周のことはおじさん呼びだが、その兄である風 には『お兄さん』と言ったではないか。周は眉を八の字にしながらも、唖然としたように固まってしまった。
「おい、ガキ……」
(何で俺が『おじさん』で、俺より年上の兄貴が『お兄さん』なんだ――)
プルプルと額を筋立てながら、またしても顔面に闇色のトーンでもまとったようなヌウっとした表情で子涵 を見やった周に、一気に場は大爆笑と化したのだった。
◇
二日後、子涵 の父親は無事にシステムの発表に漕ぎ着くことができ、事件は完全に幕を下ろすこととなった。
馬民 に加担した台湾裏組織の連中は、駆け付けたマフィアトップ・楊礼偉 によって自国へと連行され、処遇を受けることとなった。それがどのような結末であるかは周ファミリーにとっても口を出すところではないし、知る必要もないことだ。台湾を統治する若き獅子は精鋭で、物の善悪をよく心得た人物である。彼が下す判断ならば間違いはないだろう。
また、馬民 については子涵 の母親を手に掛けた罪が暴かれ、システム強奪を企てた件と共にこちらは司法によって裁かれることが決まったようだ。おそらくは生涯檻の中で暮らすことになろうということだった。
メビィらのチームからも助力に際して感謝の意を示され、鐘崎らは香港での休暇を終えたのだった。
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