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倒産の罠6

 もうそんなところまで考えてあるわけか。丹羽は正直なところ驚きを隠せなかった。鐘崎組にこの件を依頼すれば、何らかの知恵をもらえるかとは思っていたものの、まさか囮作戦など考えもつかなかったからだ。しかもその囮役に周一族の社を使うなどということからしても仰天させられる。  だが、方法としては確かに悪くない。周焔(ジォウ イェン)の社は敵にとって甘い汁といえる大企業であるし、例えば仮に敵が非常に優秀であったとして、アイス・カンパニーのバックに香港マフィアがついていると知っていたと仮定する。この作戦が敵を検挙する罠だと勘繰られたとしても、香港マフィア頭領(ドン)一族である周ファミリーの息が掛かった会社をファミリー自ら囮に使うとはおそらく考えないだろうからだ。上手くすれば将来的にはマフィアの組織そのものを乗っ取れると踏んで、短期間で大々的に勝負に出てくる可能性もある。  それとは逆にアイス・カンパニーとマフィアの接点を知らなかった場合でも、日本国内では大手の企業だ。金儲けが目的ならば話に乗ってくるはずだ。  そうなることを見込んでの策なのだろうが、それにしても度胸がいいとしか言いようがない。一歩間違えば、本当に組織ごと乗っ取られることも皆無ではない。そんなことになれば責任問題どころではなくなってくるだろう。今更ではあるが、丹羽は鐘崎組に依頼したことを後悔することにならなければ良いがと祈る心持ちにさせられてしまった。  そんな丹羽の危惧を他所に裏社会の男たちは着々と計画の手順を語る。 「この計画を実行するに当たって、もうひとつ重要な事柄を伝えておかねばならん。それは事が済むまで我々以外の者に計画を漏らさないということだ」  どういう意味だと丹羽が首を傾げる。 「計画の実行部隊である我々数人を除く者、しいては我々の家族身内にも本当のことを伝えてはならないということだ」  身内とはつまり周焔(ジォウ イェン)の伴侶である冰や、鐘崎の伴侶の紫月も含めた近しい者にも極秘にしたまま遂行するという意味らしい。 「ご家族にも内緒にされるので?」 「そうだ。我が妻や長男・(ファン)の嫁はもちろん、次男・(イェン)の伴侶である冰、それに遼二の伴侶・紫月にも内密とする。理由は敵方からの探りに対する信憑性を確実にする為だ」  隼に続いて長男の(ファン)が捕捉する。 「冰や紫月は我々と違って根が実直だからな。実際には乗っ取られていないと分かっていての演技は敵に不審感を抱かせかねない。逆に冰らが必死に生活を守ろうとする姿こそが敵を欺く要となるだろう」  むろんのこと、冰らには心労を課すことになるが、この計画を遂行するには致し方ないと周親子は言った。丹羽からすればそれもまた仰天である。 「――鐘崎もそれでいいのか?」 「ああ。敵は企業を乗っ取った後もしばらくの間は前経営者一家の暮らしぶりを偵察しているようだからな。氷川と冰には安アパートに住んでもらい、特に氷川の方には日雇い労働者として工事現場で働いてもらう。冰には地元の図書館など、なるべく手堅い所に勤務してもらう予定だ。二人は表向き従兄弟同士ということにして、アイス・カンパニーは社長と秘書という立場の同族経営でやってきたことにする。ついでに真田氏にも二人と一緒に住んでもらい、年齢のいった父親を抱えて二人が生活に必死だということを認識させる」  敵方の油断を招いたところで曹来には更に大きな企業乗っ取りを提案させ、いよいよ相手の黒幕が顔を出さざるを得ない状況を作り上げ、一気に摘発に乗り出すという流れだそうだ。

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