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倒産の罠25

 その鐘崎の方では、粟津財閥の囮化に備えて準備を進める傍らで、中橋という男らについての調査も並行していた。  青山のマンションは突き止められた。あとは中橋以下、連中がこれまでどういった人生を歩んできたのかということを洗い出す必要がある。警視庁の丹羽とも連携して調査が進められていった。  その結果、割合容易に彼らの素性が明らかになってきた。丹羽がこれまで入手できたことを報告する。 「まずは中橋という男だが――フルネームは中橋鉄也。ヤツの両親は先代から続く町工場を経営していて、中橋自身も役員としてそこで働いていた。ところが十年前に経営が立ち行かなくなって倒産、両親はそれを苦に無理心中で亡くなっている。その後はネットでブランド品などを販売して生活しているようだが、詳しく調べたところ偽物も相当数混じっているようだ。というよりも偽ブランド品を流して荒稼ぎしているというのが実情だ」  丹羽の報告に鐘崎と曹は眉根を寄せた。 「偽ブランド品で荒稼ぎ――か」 「ところがもっと奇妙な事実が出てきたぞ。その中橋とツルんでいると思われる手下連中だが――」 「ああ……先日、氷川と冰を偵察に来たって連中か?」 「そうだ。その三人を調べたところ、中橋と境遇がよく似ていることが分かった」  つまり、偵察にやって来た三人も中橋同様、両親が中小企業の経営者で、しかも倒産もしくは買収されるなどして社を手放す事態に追い込まれていたというのだ。 「……どういうことだ。ヤツら全員が同じような境遇だってのか?」 「とすると――彼らのボスというのも、もしかしたら似た境遇の持ち主だということかも知れんな」  丹羽はその線でボスなる人物を洗い出している最中だと言った。 「中橋ら四人が四人とも親の経営していた会社が倒産などで辛酸を舐めたということは、おそらく同じ境遇の者が集まっている可能性が高い。特に中橋はそれがきっかけで両親が心中している。自分たちを倒産に追い込んだ者を恨んでいたとしても不思議はない」 「つまり、今回の企業乗っ取りは金儲けが目的ではなく、自分たちの親が被った倒産や買収という同じ方法で世間に復讐しているというわけか?」 「断定はできないが、可能性としては有り得るな。彼ら四人の他にもまだ仲間がいるかも知れん」  丹羽の方ではその線で調査を進めるとして、鐘崎と曹は中橋を通してボスという人物に接触する機会を急ぐことになった。 「では遼二と俺は早速に粟津財閥の件を中橋に報告して様子を見るとしよう」 「頼んだ。我々警察の方でも何か分かり次第連絡を入れる」  こうして鐘崎らが中橋にコンタクトを取ったところ、粟津財閥を標的にすると聞いてさすがに驚いたようである。

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