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身勝手な愛2

「――心掛けは立派だな。だが実績が伴わないのでは身勝手と思われても仕方あるまい」  李の言葉には容赦も遠慮のかけらもない。正直なところこうして飲みに付き合っているのも気が進まないという胸中そのままである。 「本当に……あなたは相変わらず手厳しいですね、李さん。香港にいた頃から精鋭と言われていたあなたらしいと言えばそうですが。けれど私だって何ものうのうと過ごしていたわけではないんです。モデルを辞めたことは――まあ不甲斐ないと認めるところですが、東南アジアに渡ってからもファミリーのお役に立ちたいと常々思ってはいた。巨額の富を得られるブツを見つけて手掛けたまでは良かったんですが、結局しくじってお縄にされ、シャバへ出るまでに十年も費やすことになろうとは――。さすがに痛手でした」  彼曰く、そのヤマが成功したら、報酬である巨額の富を香港のファミリーの下へ持ち帰って役に立ちたいと、本気でそう思っていたと言うのだ。ところが結果は失敗に終わり、地元当局に逮捕されて監獄にぶち込まれ、出て来られるまでに十年かかった――とまあそういうわけだったそうだ。  出所後すぐに香港に舞い戻り、昔の仲間の伝手で頭領次男坊の周焔が日本の東京に移り住んで起業していることを知り、訪ねて来たという。それが今日の夕刻のことだった。得意先との商談が済んで周自らロビーまで見送りに出た時にちょうど訪ねて来たこの男と鉢合わせたのだ。  幸い冰は社長室で茶器などの片付けをしていてその場にいなかったので、それだけは良かったと思った李である。いかに昔の同胞とはいえ一度ファミリーを裏切るような身勝手をした男だ。そんな人間が周と冰の関係を知ったところで、どうせろくでもない噂を立てるくらいしか脳がないと思うからである。  周は突然の来訪に驚きつつも特には嫌味のようなことも言わなかったし、達者で何よりだと温情のある言葉を掛けていたが、その後すぐに接待の会食が入っていた為、ほんの挨拶程度で済んだことは幸いだった。  ところが郭芳の方ではせっかく訪ねて来たのにそれでは物足りなかったのだろう、周の都合がつかないのなら李とだけでも話がしたいと言い出した。一緒に酒でもどうかと誘われ、気は進まなかったが了承したのは、この男が何の目的でわざわざ周を訪ねて来たのかを探る意味合いもあってのことだった。  李はハナからこの男を信用していない。面倒事の芽は早い内に摘んでおくに限るということだ。

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