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身勝手な愛9
「確かに――ご長男の周風殿も所帯を持たれて男児も授かりなすった。そろそろ後継の話が出てきても不思議ではない頃合いと言えるがな」
「そうですな。お隣台湾の楊ファミリーのところも既に風殿と年頃の近い嫡男が組織を継がれたばかりだ。うちのボスもそろそろご令息に後を任せてもとお考えになったとて不思議はなかろう」
後継は当然のこと香港在住で長男の周風だと、ほぼ皆がそう思って疑わないところではあるが、実のところ現頭領の周隼から正式な公表があったというわけではない。いわば微妙な時期だからこそ弟の周焔がトップを横取りしようと密かに動いているとしても、それ自体は有り得ない話ではないとも思うのだ。
「しかしまあ……何と言ってもネタの出どころが怪しいものだ。郭芳といったか、ヤツは元々周焔の下についていた直属の部下というではないか。いくら組織を抜けているからといって、そんなヤツが言うことを信用してよいものか……」
「案外、当の周焔が送り込んできたスパイということも考えられる」
「ふむ、それならば無くはない……といったところか。だが彼はそんなことを企むような男ではあるまいとも思うのだが――。さて、どうしたものかの――」
正直なところ、この重鎮たちの見識では次男坊の周焔が香港に舞い戻って跡目を狙っているなどとは考えてもいなかった――というのがほぼ同意見だ。
「ボスがお妾を作って周焔が生まれた当初は……確かにそういった危惧がなかったとは言わん。後々厄介な火種になってはいけないと、我々自身周焔を危険視していたことは認めるところだが……」
「でも彼は自らこの香港を離れて実母・氷川あゆみ殿の故郷である日本に移住したのだぞ。今では表の企業経営で稼いだ金をファミリーの資金源として提供してくれている。そんな男が今更跡目を狙うなど考えられんことではあるな」
「わしも同意見だ。年に数回ご実家に帰って来た際も、我々にまで土産の心遣いなども欠かさんデキた男だ。まあ……連れ合いに男を選ばれたということだけは両手放しで賛同しかねるが……」
「だが、その連れ合い――確か冰といったか、彼は非常に謙虚で欲のない男だと聞いておるぞ」
「そのようだな……。周焔が帰省時に必ず持参してくる我々への土産もその連れ合いが気を回して選んでくるそうだ。そんな諸々の経緯から周焔が成長にするにつれ、我々も彼のことを邪険に思っていた昔を反省せねばという気にさせられたものだ。間違っても兄の周風殿を出し抜こうなどという考えでいるようには見えんがな」
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