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身勝手な愛10

「やはりガセではないのか? 元部下の郭芳というヤツが勝手なことをぬかしているだけでは?」 「そんな話にホイホイ乗せられたなどとあっては我々の信用にもかかわるぞ。わしらは皆、そろそろ隠居間近の身だ。最後までファミリーのお手を煩わせるようなことがあってはならんし、汚点を残さず綺麗に身を引きたいものだ」  皆一様にそうだそうだと頷き合う。ところが――だ。  そんな中に突然の来訪者を告げる玄関のベルが鳴り、出てみると何とそこには情報をリークしてきた郭芳当人が現れたことに驚かされた面々であった。  郭芳はたった一人でやって来たようで、他に連れは見当たらない。だからといってはなんだが、重鎮たちも少々彼をみくびってしまったのが運の尽きであった。彼は単身、こちらは六人。いかに老体揃いといえど、六対一で何ができるわけもなかろうと邸に招き入れてしまったことを後悔する羽目になろうとは、この時の誰もが想像すらしていなかったのだ。気付いた時には見たこともない廃倉庫のような場所に六人全員が拘束されていて、蒼白となる事態に陥ってしまっていた。 ◇    ◇    ◇  汐留の周の元に父の周隼から一報が入ったのは、重鎮たちが姿を消してから数日後のことだった。側近六名が一度に行方不明になったことで、周の元にも調査方々助力の要請が届いたのだ。  隼の話では鐘崎組にも同じく助力を願いたいとのことで、周は親友であり組若頭でもある鐘崎遼二を連れて香港の実家へ赴くこととなった。二人の伴侶である冰と紫月も一緒だ。  鐘崎組からは若頭と姐の警護も兼ねて番頭の源次郎が同行することとなり、周の方では社の業務を李と劉に任せて家令の真田を連れて行くことに決まった。  鐘崎らとは空港で待ち合わせることにして、汐留の社長室では周が李らに留守を預ける算段をしていた。 「状況は逐次報告を入れるが、向こうに行ったらいつ帰れるかは今のところ何とも言えん。長期戦になるようなら一旦帰国も有り得るだろうが、留守を頼んだぞ」 「かしこまりました。経営の方はしっかりお守りいたしますのでどうぞご心配なく。老板もお気をつけて」  李は主人を送り出しながら、ふとある思いが脳裏を過って、自分たちの方でも独自の調査を考えるのだった。 (行方不明になったのはボスの第一側近の重鎮方――か)  李が気になったのはその重鎮たちについての話題がつい先日訪ねて来た郭芳の口から出ていたということだった。

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