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身勝手な愛16

「おやおや、お気付きのようですね。雪吹冰さん――でしたね」 「……あなたは……?」  すると、重鎮の一人が男に向かって啖呵を切った。 「郭芳! どういうつもりだ! わしらをこんな所に閉じ込めた上に……この人まで拐いおって! こんなことがバレたらお前はただじゃ済まされんぞ」  ところが男はまるで動じていない。ヘラヘラと笑いながら太々しい態度でこちらへと近寄って来た。見ればあろうことかその手には短銃が握られている。 「――クッ……! 皆さん、僕の後ろへ!」  冰は咄嗟に両腕を広げて重鎮たちを自分の背に隠すべく前に歩み出た。 「ほう? 随分とまた威勢のいい――。そんなふうに庇えばあなたのお株が上がるとでもお思いで?」  男は重鎮たちの盾にならんとした冰の態度に苛立ちを覚えた様子だ。銃口をこちらに向けたまま、ツカツカと早足でやって来ると、いきなり冰のこめかみ目掛けて突き当てた。 「郭芳……! やめんかッ!」 「この方を誰だと思っておる!」  さすがに焦ってか重鎮たちが声を揃えて止めに掛かる。 「ふん! 誰だと思っている――ですって? そんなことは聞かずとも承知ですよ。僕にとっては目の上のたんこぶ――非常に鬱陶しい存在なんですからね!」  どうやら男にとって冰は邪魔者のようだ。 「と……とにかく……その銃を下ろせ……! 目的は何だというのだ」  重鎮の説得に男はニヤっと口角を上げた。 「いいでしょう。下ろせと言うなら下ろしましょう? だが条件がある。この雪吹冰には――これにサインしてもらいます」  懐から一枚の紙切れを取り出すと、冰の目の前へとぶら下げてみせた。 「それは一体何だ! 何に署名させようというのだ……!」 「ふん、そう怒鳴ってばかりいたら皆さんの体力を消耗するだけですよ? どうせあなた方は間もなく隠居を考えていいお年だ。おとなしくしているのが得というものです」 「……グッ、郭芳……貴様……」 「この書類はね、雪吹冰――ああ、今は図々しくも周冰でしたか。彼が周氏を抜けて元の雪吹姓に戻りたいという意思表明が記してあるものです」 「――! 何だと……?」 「今後一切周家との関わりを絶って、婚姻関係を解消させて欲しいという雪吹冰の意思表示ですよ! この男がサインをすれば皆さんのことも解放します。ですから皆さんからも彼にサインするようにご説得くださいな」 「何をバカな……。我々がファミリーのご事情に口を出せるはずもあるまい。それ以前に……貴様、こんなことをしてボスや焔老板に知れたら冗談では済まされんぞ……。覚悟はできていような?」  重鎮たちが凄み掛けるも彼は平然と笑ったままだ。

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