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身勝手な愛23
「わしらが焔君を――あんたのご亭主を快く思っていなかったのは本当なんじゃ。というよりも――先行きが不安じゃったと言うべきか。焔君自体をどうこう思っておったわけではないのじゃがな。ファミリーの後継のことを考えれば、確かに疎ましいと思う気持ちが無かったとは言い切れん」
「わしらもまだ若かったからの。自分たちはファミリーの要だなどと意気込んでおった頃もあったんじゃ。今考えると粋がった若造の集まりじゃったと――懐かしくも恥ずかしい思いじゃがの」
「その通りじゃのう。あの頃――そう、あれは焔君が生まれる前のことじゃった。お父上の周隼殿、つまり現在のボスだが、彼がまだトップになる前のことじゃ」
というと、周隼の父――つまり周と冰にとっては祖父に当たる人が現役のボスだった頃のことだ。
「わしらは皆、隼坊っちゃんの御父上の側近じゃった。隼坊っちゃんが今の焔君たちと同じくらいの年頃のな」
「当時、わしら六人はボスから頼まれて隼坊っちゃんと共に過疎地の村へ道路を通すという事業の視察に行ったことがあっての。そこで焔君が生まれるきっかけとなるお人に出くわすことになったんじゃ」
「隼坊っちゃんは視察中に滞在していた村で一人の娘御と出会った。日本から来ていた氷川財閥というところの娘さんでな、歳は坊ちゃんより少々下じゃった。とても綺麗な、美しい娘さんでな」
「それが氷川あゆみ殿――焔君の母君だったのじゃ」
つまり、周の両親が出会ったきっかけの話である。冰は驚きに大きく瞳を見開いてしまった。
これまで亭主の周からも聞いたことのなかった両親の馴れ初め――。周が話さないということは彼自身もその馴れ初めを知らないか、もしくは言う必要のないことと思っているのかも知れないが、やはり興味を覚えずにはいられなかった。
「当時、隼坊っちゃんは既にご結婚されていらしてな。奥方は――ご存知と思うが香蘭様じゃ。長男の風君も生まれておった。ご夫婦はたいそう仲が良うてな。まさかわしらもあんなことになるとは思ってもみなかったんじゃ」
周隼のお付きでこの重鎮たちが過疎地の村に偵察に行ったのは今から三十余年前のことだったそうだ。周一族は祖父の時代からそうした支援事業に力を注いできたようで、今でもその事業は続いているとのことだった。例の鉱山がある中国南部の山の村のことである。
開発事業の傍らで珍しい鉱石が発見されたことから、今では道路開発を別の場所に移し、鉱山として本格的に運営することになったわけだが、当時はまだ鉱石も見つかっていなかったらしい。
この事業には周一族の他に近隣諸国からも財閥系企業が携わっていて、その内の日本企業が氷川財閥だったそうだ。つまり周の実母である氷川あゆみの実家である。彼女もまた、父の代理として視察に訪れていたとのことだった。
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