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身勝手な愛32

「――で? リモート繋がったら俺はどう言えばいいわけ? ただ単に籍を抜いて自由にしてくださいなんて言ったところで、相手にしてもらえないことくらいアンタも承知でしょ? 上手くあいつらに『うん』と言わせる術は考えてあるんだろうね?」  冰が訊くと、郭芳は困ったように視線を泳がせた。 「……そう言われても……そうだな、やはり素直に聞き入れてはもらえまいか」 「はぁ? じゃあ何? アンタ、何の考えもなしにこんなことしたっての?」 「いや……待ってくれ! 考えなしにやったわけじゃない。私はあの人とキミが愛し合っていると思っていたから……キミから別れたいと言わせれば、あの人も裏切られたと思ってキミを見限ってくれるかと思ったのだ」 「そんなぁ! アンタね、相手は一応この香港を仕切るマフィアよ? もうちっとマトモな手段を考えてから行動を起こしてくれってのよ!」 「……いや、面目ない。私はてっきりキミとあの人がいい仲だとばかり思って……頭に血が昇ってしまったのだ」 「はぁ……もう! っていうかさ、さっきっからあの人あの人言ってるけど。アンタ、もしかしてあの次男坊に気があるってわけ?」 「い、いや……そうではないが……」 「別に隠さなくたっていいよ! 今時のご時世じゃん? 男が男に惚れたって珍しくも何でもないって」  はっきり言っちゃえ! とでもいうように冰はおどけてみせる。 「いや……本当にそういうわけじゃないのだ。私はただ……あの人にはマフィアの周焔でいて欲しい――そう思っているだけだ。この前、十何年ぶりかであの人に会ったが、すっかり企業人になられてしまって……表情も穏やかになられて、まるでご自身がマフィアのファミリーだということを忘れてしまったかのようだった。焦った私はすぐに昔の仲間に連絡を取った。そうしたら……あの人が香港を離れて日本で起業し、キミと結婚していると聞かされた。あの人を変えたのはキミのせいだと思ったのだ。あの人にはマフィアの――できることならファミリーを引っ張っていくトップに立って裏の世界で輝き続けていて欲しい。やさしい穏やかな笑顔なんて見たくない。抜き身の刃を懐に隠し持っているような――そんなゾクゾクするような感動を我々下の者に与え続けてくれる人でいて欲しい。そう願っているだけなのだ」  ここまで聞いて、冰の方でも少々思い違いをしていたことに気付く。てっきりこの郭芳は周に恋情を抱いているのかと思っていたのだが、どうもそうではないらしい。ということは、方向転換だ。やり口を変える必要がある。

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