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身勝手な愛33
「ふぅん、そう……。だったら質問。ねえ郭芳さん、もしも俺が本気であの次男坊に惚れてて、あの人も本当に俺を妻にしたいほど愛してたとしたら、どうするつもりだったわけ? 男同士で愛してるだの何だのとやってるせいであの人がマフィアの心を失くしちゃったと考える? それともマフィアの心さえ忘れてなければ、あの人に妻がいようがアンタはそれで満足できるってこと?」
まあ、その妻というのが『俺』に限った話じゃなく、別の誰かだったとしてもだけど――と冰は訊いた。
「そ……れは、もちろんだ。あの人がマフィアの心を忘れてさえいなければ――私は充分満足だ。私がファミリーを抜けてヨーロッパでモデルになろうとしたのも、元はと言えばもっと大きな世界の舞台で通用するモデルになって……もっと重要な情報提供ができると思ったからだ。そうすればあの人のお立場ももっと上がる。いずれはファミリーのトップに立ってくださる日が来るかも知れないと。その為なら私にできることは何でもしたいと本気でそう思っていた――! なのに……私はモデルとしても芽が出ず、東南アジアに逃れて大きなヤマを踏もうとして失敗。十年の刑を食らって辛酸を舐めた……。あの人の役に立ちたい気持ちはあるのに――いつも上手くいかずに、李狼珠のようにあの人のお側に立つことすら許されない……。こんな私だ……」
ともすれば涙をこぼしそうになりながらも郭芳は続けた。
「あの人がボスの後を継いで……この香港の裏の世界で君臨してくださるのなら、他には何も望まない。キミがあの人の妻というなら私にとっては大事な姐さんだ。この老人方がどんなに邪魔しようが反対しようが、私はキミとあの人を守る為なら身を捨てて闘う覚悟だ!」
床に手をついて嗚咽する郭芳に、冰はやれやれと苦笑させられてしまった。
もしかしたら彼も自分と同様、嘘ハッタリの出まかせを言っている可能性がゼロとは言えないが、これまでの彼の態度や言葉に嘘は無さそうだ。もしもこれが自分と同じく彼の演技であるとすれば狐と狸の化かし合いだ。勝負は互角――その時は素直に両手を上げて覚悟するしかない。
「――なるほど。それにしても、随分とまた惚れ込まれたものだね」
ポン、と腰掛けていた木箱から飛び降りると、床で突っ伏している郭芳の側に屈みながら冰は言った。
「郭芳さん、アンタそんなにあの次男坊をボスにしたいわけ?」
「……え?」
顔を上げた郭芳の瞳は真っ赤に潤んで涙目になっていた。察するに、これが彼の本心であって、演技でも嘘でもないと理解できる。
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