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身勝手な愛37

「ねえ、郭芳さん。この香港で――ファミリーのトップの座に座ることだけがマフィアなのでしょうか? 遠く離れた場所に居ても、常に家族を思い、敬い、ファミリーの為に少しでも何か役に立てることがあればと思う気持ちこそが大切なのではありませんか? 例え見た目が企業人だろうと、表情が穏やかだろうと、心の中に確固たる愛情と誇りがあれば――どこにいてもどんな|形《なり》でもファミリーの一員ではありませんか? 彼は決して腑抜けたわけではない。あの人は――今でも間違いなくあなたが知っているマフィアの周焔ですよ」 「……どういう……意味だ?」 「あなたの目で確かめれば分かりますよ。彼が本当に腑抜けになってしまったのかどうか――」  スイと指さすように倉庫入り口の扉へと視線を向ける。  と、そこへ外の様子が騒がしくなり、大勢の男たちが駆け付けて来る様子が視界に飛び込んできた。ファミリーの側近たちだ。  屈強な男たちの手には銃が構えられていて、あっという間に包囲されてしまう――。そんな中、皆に道を譲られるようにして、しっかりと地面を踏み締めながらこちらに近付いてくる男――堂々たるその背に立ち昇る龍図の後背を背負ったかのようなオーラを放っている。それは紛れもない、遠い昔に郭芳が見ていたそのままの周焔の姿だった。 「――郭芳か。やはり一連の発端はお前か」 「……焔……老板」  格別には怒っているわけでもないと思える穏やかな口調だが、その声を聞いただけで背筋に寒気が走るような感覚が郭芳の全身を金縛りにする。今、彼が『やはり』と言ったところから察するに、この企てをしたのが誰かということもおおよそ調べはついていたということを示している。周はぐるりと倉庫内を見渡しながら、短いもうひと言を付け加えた。 「まあいい。話はあとだ」  とにかくは捉えられていた重鎮方を救助させんと引き連れて来たファミリーの側近たちに視線で合図する。 「は! かしこまりました」  皆はすぐさま重鎮方を保護して車へと案内しようとしたが、当の重鎮方がちょっと待ってくれと言って周の元へと駆け寄った。 「焔君……すまなんだ! わしらのせいで迷惑をかけた。じゃが、この冰さんは何も悪くないのじゃ!」 「その通りじゃ! 冰さんはわしらを救う為にあんな紙切れにサインをしたのじゃ! 決して彼の本心ではありませぬぞ!」 「そうとも! わしらは皆、冰さんに守ってもろうた。冰さんはわしらの為に身を挺して闘ってくれたのじゃ!」  どうかあの紙切れに書かれていたことは信じないでくれと必死に訴える。周は穏やかな笑みを浮かべながらも、もちろん理解しているといったふうにうなずいてみせた。

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