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陰謀12

 一方、香港では兄の周風が側近の曹来を自室へと呼び、例の画像を見せているところだった。  とにかくは何も事情を告げずに弟・焔の息子かも知れないといわれる男の画像だけを提示して感想を訊くことにする。曹もまた、風の意味深な感じから画像の男にどんなワケがあるのかと不思議に思ったようだ。パソコンの画面を覗き込みながら首を傾げる。 「……この男がどうかしたのか? 薬でも流し歩いている売人関係とかか? ――にしては案外若く感じられるが」  一見大人っぽくもあるが、その実まだ成人前ではないのか? と言って風を見やる。やはり事情を説明せずに画像だけを見せた印象では、弟・焔との親子関係を連想させることはないようだ。つまりぱっと見ただけではこの男が彼と似ているという印象は抱かなかったということになる。 「お前さんがわざわざ俺を自室に呼んでまで見せるということは――おそらく何か重要なことに繋がる人物なのだろうがな。画像だけ見た限りじゃ特に悪に手を染めているような印象は受けんな」  いったい何をやらかした男なんだと曹は不思議顔だ。 「――そう思うか? 実は少々厄介なことになっていてな。お前さんの目から見てこの男にどんな印象を持つかを訊きたかったわけだが」 「それほど重要な人物ってわけか? どんな――と言われてもな。正直に言ってまだ子供にしか思えんな。まさかファミリーに不利益をもたらす敵組織の要――とか? そうは到底見えんがね」  まあ見た目だけで人は判断できないだろうが、長い間この世界にいると顔つきを見ただけで胡散臭いかどうかは案外本能で感じられるということもある。だが、曹の第一印象では画像の男からそういった危険な臭いは受けないようだ。 「もしもこれがよほどの悪人というなら、俺の目も勘も鈍ってきたかと少々焦らされそうだ。俺たちは時代に追いついていけてないのか――とかな」 「ふむ……そうか。お前は我がファミリーの専任弁護士だ。人を見る目も俺よりは鋭い。だがそんなお前がそう感じるならばやはり危惧することもない……ということになるか」 「もったいぶってねえでいい加減事情を話さんか。いったいこの男が何をしでかしたってんだ?」  曹は呆れ気味で風を急っつく。 「実はな――」  風がようやく種明かしをすると、言うまでもなく曹は驚きに目を見張った。というよりも呆れて唖然としてしまったほどだ。 「は、はは……冗談だろ? こいつが焔君の息子だってのか?」 「――そうらしい。というよりも焔自身も信じられないといったところのようだ」 「――ふむ。十五年前の鉱山での事故で――か。あの時、俺や李がお前さん方兄弟を見つけるまでに要した時間は約半月ほどだったな。その間に子供ができるようなことがあったというのが相手の言い分――というわけだな?」 「半月といっても俺と焔が意識を取り戻したのは事故から一週間後だ。その後、お前さんたちが迎えに来るまでの一週間はしっかりと記憶がある。その間にそういった事実は無かったとはっきり言えるからな。本当にその女の言うことが事実とするならば、子供ができたのは事故に遭った日から俺と焔が意識を取り戻すまでの一週間だったということになる」

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