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陰謀26
その頃、上海に向かった鐘崎親子の方でも新たな事実を突き止めることに成功していた。香港で別ルートから調査に当たっていた曹来と偶然にもこの上海の地で遭遇、謎が次々と明らかになっていった。
まずは鐘崎の父・僚一からこれまでに掴んだ情報が開示される。
「俺たちの方では周兄弟を助けた一家が移り住んだという家を突き止めることができた。ここ上海でも高級住宅街といわれている地区にたいそうな豪邸を購入している。一家が村を出た十五年前のことだ」
ところがその豪邸に住んでいたのはわずか半年にも満たなかったそうだ。
「家はすぐに売りに出され、一家は町外れのアパートへと移ったことが確認できた。娘のスーリャンが出産したのはその数ヶ月後のことだ。だが驚くべきことにその産院を当たったところ、スーリャンが生んだのは女児だったそうだ」
しかし彼女が周の子供だと言い張っているのは男児だ。生まれたのが女の子だとするなら、彼女が今連れている息子は彼女の生んだ子ではないということになる。そこで今度は曹の出番だ。
「こちらの調べで分かったのは、焔君の息子だといわれている子役はタイ人の俳優チャンムーンという男の実の子で間違いなさそうです。本名は焔君が聞いた通りのアーティットで間違いありませんでした。映画のタイトルロールにあったチャンサンというのはやはり芸名ですね。父親のチャンムーンは故郷のタイから上海に出て来て割とすぐの頃に芸能事務所からスカウトを受けています。そのまま俳優という職業を目指したものの、なかなか芽が出ない中、同じ事務所に所属していた女優の卵と知り合って結婚。二人の間にできたのがアーティットという息子です。つまり、あの子役は焔君とは何の関係もない他人ということになります」
曹の調べでは息子が生まれて数年後に女優の卵だった母親が病で他界したそうで、父親である俳優のチャンムーンはやもめとなったそうだ。
「その後は男手ひとつで息子を育てながら細々と俳優業を続けていたようです」
「ふむ、なるほど。ということは――その俳優チャンムーンと息子のアーティットはどこかで周兄弟を助けた一家の娘・スーリャンと知り合ったということになる。もしかしたらその俳優と恋仲になったとも考えられる」
まあ恋仲でないにしろ、顔見知りになったのは事実だろう。それがなぜ今頃になって周の前に姿を現し、赤の他人である俳優の息子を周の子供だなどと偽ったかである。
僚一が続けた。
「俺たちの方では調べを進める中でひとつどうにも気になることが見つかった。十五年前、一家がここ上海へ移り住んだのと同じ時期に一人の村人が同じく村を出てどこかの都市部へ移住したということだ」
その村人とは、乱暴者で村の誰からも恐れられていたという若い男のことだ。
「これは俺の憶測だが――案外その男に脅されて一家は村を出ることになった可能性もあるんじゃねえかと。狭い村のことだ、当時周家から莫大な礼金を手にした一家の噂は瞬く間に村中に広がったと思われる。そこに目をつけた乱暴者の男が一家を脅し、礼金を奪う目的でこの上海に豪邸を買わせたのだと考えればいろいろと辻褄が合ってくるように思えるのだがな」
「では僚一さんは今回の件にもその男が絡んでいるとお思いで――?」
曹は驚きつつも、一理あると言って考え込んだ。
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