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陰謀27
「話を整理してみましょう。僚一さんの想像通りにその荒くれ者の若い男が礼金目当てで一家を脅し、豪邸を購入させた。となると、その男と一家は一時期その豪邸で共に暮らしていたという可能性が出てきます。ところが半年後には売っ払って金に変えている。焔君の話では――スーリャンというその女の暮らしぶりからして金に余裕があるふうには思えないということですから、おそらくはその金も男が持ち逃げしたと考えるべきでしょう」
続いて鐘崎が言う。
「その豪邸を売り払った時にはスーリャンは女児を孕っていた。アパートに移り住んで女児を出産、その後数年は家族四人そのアパートで暮らしたが、両親は都会の水に馴染めずに村へと舞い戻った。スーリャンは女児を抱えながら上海に残り、タイ人の俳優チャンムーン親子と知り合った――ということになりますね」
金は村で乱暴者とされていた男に騙し取られ、生きるのに必死だったスーリャンがタイ人の俳優チャンムーンに惹かれ、頼みに思ったとて不思議はない。
「ここで問題になるのは――スーリャンが生んだ女児が誰の子供かということだ。十五年前、彼女が焔に強要されて孕ったという可能性がひとつ。だが、そうであるならなぜ俳優の息子であるアーティットが焔の子供だなどと嘘をついたのだ」
本当に周焔に犯されて出来た子供なら、スーリャンが実際に生んだ女児を連れていくべきだろうと僚一は言うのだ。曹もまた、その通りだと言って首を傾げた。
「確かに――。生まれた女児が本当に焔君の子であるなら堂々とその子供を連れていけばいいだけのこと。仮に親子鑑定に掛けられたとして、わざわざ嘘がバレるような他人の子を連れていく必要はないですよね」
「そこから推測できるのは、スーリャンが生んだ女児は焔の子ではない――ということだ」
「――ではいったい誰の子だと……?」
まさか――と言って曹も鐘崎も瞳を見開いた。
「そうだ。一家を脅して村を出た若い乱暴者の男――という可能性が高くなってくる」
僚一の推測はこうだ。
十五年前、周兄弟を世話したスーリャン一家はその礼として莫大な金額を手に入れた。もちろん、周焔とスーリャンの間には子供ができるような関係は一切無かった。一家が貰った大金に目をつけた乱暴者の男がその金を目当てに彼女を強姦。既成事実を作り上げて村に居づらくさせた挙句、上海に豪邸を買わせ、彼女が孕ったことを知るとすぐにその豪邸を売り払って金に変え、それを持ち逃げした。
残されたスーリャンは女児を出産、両親は村へと舞い戻ったが数年後に他界。上海に残って女手ひとつで女児を育てていた彼女はタイ人俳優のチャンムーン親子と知り合って恋仲になった。
「そこで止むに止まれない何かが起こった。おそらくは金を騙し取った乱暴者の男と偶然にも再会したのだとすれば――」
「スーリャンはまたもその男に脅されて、周家から金を巻き上げようとこんな猿芝居に加担させられたということか?」
「そう考えれば辻褄が合う気がせんか?」
僚一の推測に、鐘崎も曹もなるほどと肩を落とした。
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