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絞り椿となりて永遠に咲く31

 一時間後、汐留の医療室では鄧が鐘崎と清水の容体を診ながら治療に忙しなくしていた。捜索に携わった者たちも念の為全員が医療室で鄧の部下である医師たちの診察を受けていた。ビル内に充満した薬品の影響を受けていればいけないからだ。  幸い、周や紫月以下、全員がこれといって体調に変化は見られず無事だったことに安堵させられる。鐘崎と清水の衣服に残っていた薬品の臭いから、クロロフォルムかエーテルのような薬品をばら撒かれた可能性が指摘された。 「遼二君たちを動かすのは危険です。しばらくこのままここの医療室で入院してもらい、経過を見ましょう」  外傷はなく命に別状はないものの、長時間に渡って薬品を吸い込んでしまったことに変わりはない。安静にして逐次目の届くところで容体を診てくれるという鄧に、紫月らは感謝の思いでいっぱいだった。  また、源次郎の方では警視庁の丹羽修司へと一報を入れ、すぐに丹羽が周邸へと駆け付けて来た。事情を聞いた丹羽はひどく驚いたようだ。 「まさかそんなことがあったとは……。それで、鐘崎の容体は?」 「命に別状はないとのことですが、強い睡眠剤で未だ目を覚ましておりません。意識が戻れば詳しい経緯も分かりましょうが……」  源次郎は鐘崎がスーツの上着に保管していた名刺を丹羽へと差し出した。 「今のところ手掛かりはこの名刺しかありません。運転手の話では、若たちはこの私立探偵という男に会いに行った先で事件に巻き込まれたと思われます」  源次郎は名刺の指紋から犯人を割り出せないかと丹羽に助力を要請。 「分かりました。すぐに前科者指紋との照合を行ってみます!」  源次郎らは周邸に戻ってからすぐに私立探偵の男がよこしたその名刺の住所を調べに当たったが、記載先はでたらめで、探偵事務所そのものが存在しなかった。もしもこの名刺の中田友也という男が何かしらの前科で逮捕歴があれば、指紋からすぐに素性が割れるはずだ。  ところが、丹羽からの報告で彼に前科は無いようだとのことだった。 「前科者ではありませんでしたが、駐車違反の際に取得された指紋からこの男の素性が割れました! 今、捜査員を向かわせています!」  中田友也というのも当然か偽名だったとのことで、本名は上坂譲というらしい。フリーでコンピューター関係の仕事をしているらしく、住まいは埼玉県だそうだ。 「埼玉の上坂――とな。聞き覚えのない名前ですな」  住所からも名前からも思い当たらない見知らぬ相手だ。 「裏の世界の関係者という線も捨てきれませんが、もしかすると闇バイトの類で実行犯として雇われただけとも考えられます」  源次郎が考え込む中、周の方では李と劉がその上坂譲という男の素性を更に詳しく洗ってみることにした。

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