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絞り椿となりて永遠に咲く32

 そうして一夜が明けた。  朝になっても鐘崎と清水の意識は戻らないままだったが、丹羽らの捜査によって上坂譲が引っ張られ、事の詳細が明らかになってきた。それによると、やはり上坂は一時的にバイトとして雇われただけで、発破解体のことなどまるで知らなかったということのようだった。朝一番で丹羽がこれまでに分かったことを報告にやって来た。 「どうやらこの上坂という男は本ボシの素性を知らないようです。ネットで利のいいバイトを見つけて乗っかっただけだと言っている」  連絡はすべてアプリにて文字のやり取りだけで行われ、偽の名刺や報酬の受け渡しもコインロッカーを介して受け取ったという。幸い、まだ上坂がアプリを削除していなかった為、やり取りはすべて残っていたことから本ボシによって与えられた指示も事細かに知ることができたそうだ。 「今、この名刺が刷られた印刷会社を当たっています」  おそらくはインターネットで手軽に刷れるところに発注されたに違いない。鐘崎に渡すこの一枚だけが入り用だとすれば、刷った枚数も少数だろう。 「それから――上坂が残していたアプリから気になる情報が取れました。ヤツが雇われた際の仕事内容ですが、鐘崎を海沿いの遊歩道へ呼び出して、私立探偵と名乗るよう指示されていたようです。その際、鐘崎に会う時間と伝える内容も詳しく決められていましたが、気になるのは鐘崎の嫁さんというくだりが出てきたことです」 「嫁さん……というと、姐さんのことか?」 「ええ……。上坂の証言では、鐘崎についての素行調査を依頼されたが、その依頼人が胡散臭かったので依頼自体を断り、鐘崎に事の次第を打ち明ける為に呼び出したと言えと指示されたそうです。その際、依頼人の名は明かさずに、鐘崎の嫁さんと親しい間柄のようだったと伝えろと言われたとか」  そこまでの情報で誰もが紫月の後輩である三春谷を思い浮かべた。 「じゃあ……遼を嵌めたのは三春谷の可能性が高えってことか……?」  紫月は驚愕といった感じで拳を握り締めてしまった。 「ただし上坂の証言では、発破解体のことはまったく知らなかったということですし、鐘崎と落ち合った場所も解体現場のビルからは少々離れていました。上坂の言うには鐘崎と会って話したのはほんの数分で、すぐに別れたということですから、その後どうやってあのビルに閉じ込められることになったのかが謎です」  上坂が鐘崎らをあのビルに連れ込んだわけではないとすれば、話が終わって別れた後に何かが起こったということだ。

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