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絞り椿となりて永遠に咲く35
周らが医療室に駆け付けると、付ききりで看病に当たっていた紫月と冰が安堵の表情を浮かべていた。鐘崎と清水も未だベッドの上ながら、リクライニングで半身を起こした状態でいて、病状としても特に気になるところは見当たらず、良好とのことに安堵させられた。
「カネ! 清水! 気がついたか」
「氷川――すまなかったな。世話を掛けた」
「具合は――?」
「ああ、お陰様でな。まだ少し頭痛がするが、問題ない」
「そうか――良かった」
とにかくは二人の無事な様子に一安心である。
「目覚めたばかりで悪いが、経緯を話してもらえるか?」
周がベッド脇に腰掛けていた紫月と替わって事情を訊く。鐘崎からは周と源次郎らが想像していたこととほぼ同じことが語られた。
その結果、やはり私立探偵を名乗る男を差し向けたのは三春谷だろうことと、例の古ビルに誘い込まれた経緯は数人の男たちが女性を手籠めにしようとしているような言い争いを聞いたことによるものだと判明した。
「だが、俺たちが声を追い掛けてビルの部屋に入っても、女どころか男たちも見当たらなかった。そこで初めて録音による偽の音声に嵌められたと気付いたんだ」
ところが室内には既に大量のクロロフォルムらしきものがばら撒かれていて、咄嗟に外へ出ようとするも扉まで辿り着く前に酷い目眩に襲われて儘ならなかったそうだ。
「今、紫月と冰から聞いて驚いたが、まさかあのビルで爆破解体が行われることになっていたとはな……」
鐘崎は異変に気付いて自分たちを捜してくれたことに心から感謝すると言って頭を下げた。
「それでおめえ、あのビルに誘い込んだヤツのツラは見なかったのか?」
周が訊くも鐘崎も清水も残念ながら人影は見ていないと言って眉根を寄せた。
「言い争う声ははっきり聞こえんだがな。ただ、俺たちが部屋に飛び込んだと同時にドアが閉められて鍵を掛けられたのは確かだ。その後も録音された音声が回しっぱなしになっていたことから、あの場に誰かが居たことは間違いねえ」
とすれば、やはり三春谷という男が疑わしくなってくるが、鐘崎らもはっきりと顔を見たわけではない以上、確たる証拠となるものが無いのも事実だ。
「三春谷って野郎はどうやら昨夜は自宅アパートにも実家にも、それに婚約者という女の元にも行った形跡がねえ。今、周辺のホテルを当たっていたんだが、仮に泊まっていたとしても偽名だろうしな」
そんな話をしている時だった。丹羽から報告が入り、解体現場近くのビジネスホテルの監視カメラに三春谷らしき人物が映っているのを確認したとのことだった。
「やっぱり遼たちを嵌めたのは三春谷のヤツだったってことか……」
紫月は何ともいえない表情で頭を抱え込んでしまった。
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