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絞り椿となりて永遠に咲く36

 三春谷が鐘崎のことを快く思っていないことは察しがついていたものの、まさかこんな大それた事件を起こそうとは思ってもみなかったというのが実のところだった。 「俺ンせいだ……。俺がもっとしっかり対応してれば……」  だが、それこそ紫月のせいなどでは決してないと言って、鐘崎も周らも全員で紫月を宥めた。 「おめえのせいじゃねえ。罠に引っ掛かったのは俺の落ち度と言える。それ以前に、おめえに危害がいかなくて良かった」 「遼……。剛ちゃんもホントにすまねえ。三春谷が犯人なら原因は俺だ。本当にすまねえ!」  とにかく二人が無事で良かったと言って、救出に動いてくれた周らをはじめ、皆に頭を下げた紫月だった。 「ところで、その三春谷って野郎が本ボシとして――だ。実際にカネたちをビルの中へ誘い込んだという動かねえ証拠が必要だな」  腕組みをしながら周が言う。現段階では鐘崎ら自身も自分たちを閉じ込めた人物の顔を見ていないことから、三春谷が犯人だとするには証拠不十分といえる。だが、それについては警視庁の丹羽の方で動いていてくれていた。  警視庁、捜査一課――。  その部屋の扉口には「汐留倉庫街発破解体現場殺人未遂事件」と掲げられた対策本部が設置されていた。捜査員たちを前に捜査一課長の丹羽が陣頭指揮を取っている。 「被害者をあのビルに閉じ込めた手口が分かった。鐘崎たちは録音による暴行シーンの音声を聞かされたことで解体現場のビルへ誘い込まれたと見られる。捜査員は各所に分かれて証拠の採取を行ってくれ。一班は解体現場のビルで音声が録音されていたという機器の捜索。これについては爆破によって原型を留めていない可能性が高いが、残骸だけでも入手して欲しい! 二班は三春谷という男のアパートで家宅捜査だ。録音元となった動画または音声を探してくれ! 家宅捜索の令状は取った」  残った者たちは解体現場周辺のホテルの聞き込み――と、丹羽の指示で捜査員たちが各現場へと散って行った。  それから二時間もしない内に三春谷のアパートから例の強姦シーンと思われる録画が見つかったとの報告が届けられた。また、鐘崎らを閉じ込めた際にばら撒いたと見られる薬品の予備らしき瓶も発見され、パソコンの検索履歴からはその薬品についての効果を調べたことや購入経路が割れた。と同時に、既に削除されてはいたものの上坂を雇ったSNSのアカウントなども復元された。  はっきりと決め手になったのは、上坂と鐘崎が落ち合った海沿いの遊歩道から解体現場のビルまでの道筋の地図が出力されていた紙が見つかったことだった。そこには蛍光ペンで鐘崎が大通りへ出るまでに通るだろう箇所に印が入れられており、例の録音を再生する場所にはご丁寧にもバツ印が書き込まれていた。おそらくそこで鐘崎らを待機し、自ら古ビルへと誘い込んだものと思われる。 「よし! 三春谷を引っ張れ!」  午後五時少し手前、警視庁は三春谷の連行に踏み切った。

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