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第1話

「おじちゃん、はやく‼はやく‼」 「そんなに急がなくてもそう簡単になくならねぇよ」 近所で毎年行われる夏祭りには大勢の見物客が訪れる。祭りのメインは花火大会だが、主催者に雨男がいるのかここ10年くらいずっと天候に恵まれず、運よく天気に恵まれても花火が始まる頃に決まって雨に見舞われていた。 泣く子も黙る鬼の龍一家の若頭。それが俺の肩書だ。 幹部も若衆も俺に睨まれれば赤子も同然。 なのに彼だけは、俺を怖がることもなくおじちゃんおじちゃんと慕って金魚の糞のようにくっ付いて側から離れようとはしない。 うっとおしい。暑苦しい。かったるい。面倒臭い。 いくら好きになった男の子どもとはいえ、血の繋がりはないし、所詮は赤の他人。邪魔でしかないのが普通だろう。でも俺は、出会ってまだひと月しか経っていない彼が……一太が目に入れても可愛くて仕方がなかった。 だから夏祭りに「おじちゃんいこう」って誘われた時は涙が出るくらい嬉しかった。 「は?今日の今日ですか?あなたは私に喧嘩を売っているんですか?」 橘にはいつもの様にみっちり怒られたが、それでも急いでお揃いの浴衣を用意してくれた。浴衣に着替えて外に出ると一太の方から手を握ってくれて。俺と出掛けるのがどんだけ嬉しいのかぐいぐいと引っ張ってくれた。 歩いて十分ほどの夏祭りの会場に着くと、多くの屋台が軒を並べていて、大勢の見物客でごった返していた。 「端っこの店から順番に見て歩くか?一太、食いたいものがあったら遠慮することねぇぞ」 「うん」 にっこりと満面の笑みを浮かべる一太。笑った顔がこれまた可愛くて、ここにある屋台の食い物を全部買い占めたくなった。ここまできたら完全に親バカだな。まだ親じゃねぇけど、一太はこんなおっさん、しかもやくざの俺を父親として受け入れてくれるだろうか。そんな心配をよそに一太はマイペースそのものだった。 「何を探しているんだ?」 「あった」 俺に伝えようと小さな手を懸命に伸ばし指を差した先にあったのは水ヨーヨーの夜店だった。 「いちたと、おじちゃんと、ママ、はなしゃん……えっと……」 両手を使って数を数え始めた。 愛くるしいその姿に自然と和む。 「い~ち、に~い、さぁ~ん」 一緒に数を数を数えてやると、 「よんだ。おじちゃんよんだよ」 「おう」 得意気な顔で嬉しそうに破顔してくれた。

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