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第4話
結局、萃とはそれっきりになり、1年が経った。
貴臣は、T大生になっていた。
「おい、イケメン!イヴはどうしてんの?彼女いない、っつってたろ?」
同じ大学に通う柳本が声をかけてきた。
「俺の友達がさ、イイ歌バトル、ってあんじゃん?あれのクリスマスソングのファイナリストになってさ、応援に行くんだ。人数多い方がいいから付き合ってよ!」
「ん?あ、ああ」
特にやることもないので、応援にやってきたホール。
今日は『聖夜に大切な人に伝えたい』というコンセプトの為、歌詞が重要ということで大きなスクリーンに楽曲の歌詞が映し出されるらしく、巨大なスクリーンが会場の両側に置かれていた。
「すごい人だな…」
「だろ?人気あんだよ、このバトル。テレビでもやるらしいぜ?ダチは2番目に歌うんだ。応援よろしく!」
「おお」
さすが予選を通っただけあって、どの歌もよく、アッと言う間に時間が経ち、最後の一人になった。
「では、最後のシンガーです!今年高校を卒業したばっかりの18歳!仁木萃くんで《Christmas☆magic》」
―仁木……嘘だろ…
俯いていた仁木は、意を決したように前を向いた。
多分、そのルックスのせいだろう、会場がどよめく。
仁木は垂らしていた前髪を、顔がちゃんと見えるように分けていた。
ポロン…
鍵盤が鳴って、仁木の澄んだ声が響いた…
スクリーンに映し出された言葉はまるで、仁木からの手紙だった―
♪Merry Christmas,Merry Christmas.さあ言ってみて 笑顔になってるから ホントさ
Merry Christmas,Merry Christmas.不思議な言葉 1年に1度の魔法だよ
貴臣は思い出した。
―そうだ!Merry Christmas!…仁木!魔法の言葉だ、って……
そして貴臣はあの日、自分がMerry Christmasを仁木に言えなかったことを激しく後悔した。
歌は続く。
♪今日は恋人達のイヴ でも胸が痛いだけ あなたの顔さえ見れずに 靴ばっかり見つめて
泣きそうになった時 サンタクロースが言った
Merry Christmas!
It's so magic. Fantastic magic.
今夜はあなたの目を 見つめて言えるきっと 溢れる想いを抱きしめながら…
Merry Christmas,Merry Christmas.グラスを上げて 乾杯したいのは
Merry Christmas,Merry Christmas.広い世界であなた一人だけだよ…
Merry Christmas,Merry Christmas.一年中で一番の笑顔で
Merry Christmas,Merry Christmas.みんな大切な誰かに言うのでしょう…
Merry Christmas…
演奏が終わった一瞬の静けさの中、貴臣は立ち上がった。
「Merry Christmas!!仁木!!Merry Christmas!!」
ホールの端から大声で叫ぶ。
その瞬間、萃はピアノに座ったまま両手で顔を覆った。
貴臣の声が口火を切ったように、会場には萃の演奏に対するブラボーとメリークリスマスと拍手の渦が起こった。
それはまるでやっと想いが通じた2人を祝福するようで…
Christmas magicが二人の上に降り注ぎ、1年眠らせた恋が今また、始まった――
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