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第3話

※※※ 「もういい加減いいでしょう。伊芙生達が帰ってきてしまう。離してください」  護はぞんざいに和泉に言い放つ。 「自分がイッたらもうお終いなんて、最低な坊やだな。こっちはもう準備万端なんだから、そのご立派なものを早く入れてくれないと」  そう言いながら和泉は股を大きく開き、自分の蕾を指で拡げて見せつける。穴はヒクつき、何故か既にしっとりと濡れてみえた。 「そんなのアンタが勝手に自分で弄り始めだだけでしょう。俺の気持ちを伊芙生に知られたくなければ、黙ってしゃぶらせろって言われたからその通りにしただけです。それ以上の約束はしていません」  きっぱりとした護の態度に、和泉は舌打ちをしながら自分の寝台に大の字になって寝転がった。 「つまんない男。もういいや。他のちんぽ呼ぶから出て行っていいいよ」  スマホを手にしながら言い放つ和泉を横目で見ながら、護は言われなくても、と思い立ち上がった。  生徒会長の黒い噂は人づてに聞いた事があったが、まさか本当にこんなにとんでもない男だとは思ってもいなかった。 (顔は似てるけど、伊芙生とは大違いだな)  そう思いながら、初めて伊芙生とあった時の事を思い起こす。  当時、突然田舎に転校する事になった護は、くさくさした気分で放課後、部活をサボって図書室でふて寝をして過ごしていた。  うつらうつらしていたところに「大丈夫ですか?」と声をかけられ、顔をあげると伊芙生がいたのだ。  ほっそりとした輪郭に、薄らと色づいた小ぶりな唇。零れそうな瞳が煌めいて見え、しばし見惚れた。  だがその瞳がしっとりと涙に濡れ、顔色も悪いのに気づき、お前こそ大丈夫か、と思わず反対に聞き返したのだ。  「具合が悪いのかと思った」と照れながら言う伊芙生にギュッと胸が痛くなった。恋に落ちた瞬間だった。  聞けば涙目だったのは護が心配なのもあったが、そもそも、同級生に虐められているのもあったという。これからは俺が守るのだと固く誓った。  ふと気を抜くと、その愛らしい唇に吸い寄せられそうになるが、伊芙生に害なすものは自分さえ許されないのだ。  清楚で純粋な伊芙生をこの世のあらゆる邪悪なものから守るーーそれが護の使命だった。  その伊芙生の控えめで清楚な笑顔が、兄の話題になるといつも曇るのが気になっていた。今日は兄を探るいい機会になると思って着いてきたが、予想以上の害悪だった事に驚いた。 (これじゃあ、あの清純な伊芙生はさぞ辛いだろう)  なんとかしてこの兄を排除出来ないだろうか?和泉の誘いに乗ったのは、その方法を探る為でもあった。 (そんなに淫行が好きなら失踪という事にして、風俗に沈めてもいいかーー)  護が策略をめぐらせていると、スマホを見ていたはずの和泉が、いつの間にかこちらを見てニンマリと笑っていた。護は思わずギクリと身体を強ばらせる。 「お前さーー俺の事、どうしようもない奴だと思ってるでしょ」 「……」 「うちの噂聞いたことない?狐つきとか、妖とか、鬼とか色々言われてるやつ」 「それって、伊芙生が虐められてた原因のやつですよね。くだらない」 「虐められてたね……まあ、その噂はさ、元々、男達を奪われた女性達が立ててるわけ」 「……?」 「近所に住む男達は、皆吸い寄せられるようにウチの蔵に入ってくるんだよね。俺達の母親もよく蔵に入り浸ってらしいよ。分かるだろ?蔵は天国であり、地獄なんだよ。快楽のね……」  そこで和泉が含んだような目でこちらを見る。 「ーー言っておくけど、今、家族の中で一番蔵を使ってるのは伊芙生だからな」  心臓がドクンと跳ねた。  和泉が何か言った気がするが、言われた事が理解出来ない。 「試しに今も見て来れば?まだ帰ってないなんて、遅すぎると思わない?」  そんな馬鹿な。和泉はやはり頭がおかしいのだ。  護はバタンと部屋を出て、半ば転げ落ちるように階段を降りる。  二階から和泉の高笑いが聞こえてくるが、それよりも自分の心臓の音が煩い。  居間ではお手伝いさんが夕飯の準備をしている。  陰鬱な雰囲気の歳を取ったその女は、先ほど徳子と暗い声で名乗った。 「あの……伊芙生はもう帰ってきましたか?」  護が震える声で尋ねると、徳子は意味ありげな目線を送ってきた。 「……伊芙生坊ちゃんと旦那様は一度帰ってきて蔵に向かわれました」  ザクザクザクーー  護は半ば無意識に足を動かして、蔵へと向かった。  別に蔵に2人が蔵へ行ったからといって、何だというのだ。  何か用事があったに違いない、と思いつつも先程からおかしな汗が止まらない。  痛い程握りしめた拳から汗が滴って地面に落ちる。  蔵への道中は真っ暗で、奈落の底を漂っているようだった。  母屋から漏れる僅かな灯りをたよりに蔵へと向かう。  蔵の引き戸は、古く大きかった。  下界から遮断するように閉じられた扉に、生唾を飲む。  護は息を殺しながら震える手を叱咤して、扉を引いた。 (鈴の音……?)  扉が僅かに開いた時点で、チリンと音が聴こえてくる。何だろうと思った途端、次いで嬌声が漏れ聞こえた。 「……あーーッ……も………い……」  明らかに嫌がってない、男に媚びた声だ。  自分で目が血走るのが分かる。  護は構わず更に前に進み、中扉もこじ開けた。 「あ、あ、あぁーッ……ん、も……取っ……てぇッ!ん、あっ……!」 「ふ、こんなに赤く腫らして可哀想に……」  スーツを着た広い背中が、まず目に入った。背格好と服装でそれが伊吹の父、廉だという事はすぐ分かる。  両側から白くほっそりした足が伸びている。その足には赤い絽の浴衣が申し訳程度に引っかかっていた。  廉は明らかにその足の持ち主の股に身体を入れ、腰を振っている。  肉がぶつかり合うパチュンパチュンという音の他に、何故か鈴の音が聞こえて来た。  入り口からだとちょうど、相手の顔が見えない。  護はかまわずそのまま一歩、二歩と足を進めた。 「あっ、は、んっ、や、あーーッ!おかしくなっちゃう、よーーッ」  廉の腰の動きが激しくなり、喘ぎ声はますます甘く高くなる。  顔を見るまでもなかった。  護がこの何ヶ月か毎日のように夢想していた声。  愛しい愛しいーー (伊芙生ッ!!!)  ガツンと頭を後頭部で叩かれたような衝撃を受けた。  伊芙生は赤い絽の浴衣を着ていたが、前は全てはだけている。ほのかに色付いた肌には、既に精液と思しき白い液体が散っていた。  ふいに、伊芙生と目線が絡んだ。  一瞬その目は驚愕で大きく見開かれ、しっとりと潤んだ瞳は、悲しんでいるようにも快感に震えているようにも見える。 「おや、護くん。驚いたなぁ、どうしたんだい?」  明らかに護が入ってきた事を分かっていながら、さも今気がついたというように廉が大袈裟に驚いてみせた。 「ーー何を、しているんだ……」 「何をって?見て分かるだろう?愛しい息子を可愛がっている最中だ」 「親子だろうーー」 「ふふ、随分と可愛い事を言うんだね。うちの子はこれが好きなんだ。和泉も欲しがっていただろう?」  そう言いながら、強く腰を穿つと、伊芙生が一際高い嬌声を上げる。  またしてもチリンと鈴の音が聞こえた。見ると伊芙生のペニスの根元に小さな鈴がついた赤い紐が結び付けられている。  ペニスは堅く反りたって、今にもはち切れんばかりだが、紐のせいで射精ができないようになっていた。  護の目線に気がついて、廉が口端を上げる。 「これが気になるかい?この子は一度の性交で何回もイッてしまうからね。最近は始めのうちはずっとこれをつけておくんだ。そうじゃないと満足するまで抱いてやれないからね。 折角だから鈴をつけてみたんだが、存外可愛いだろう?」 そう言いながら、廉はわざとその紐を指で弾いた。 「あっ、はぁぁーんッ!」  伊芙生は甘い声をあげながら、取って取ってと腰をくねらせる。しかしそれは嫌がっているというよりも、媚態にしか見えず護は思わず生唾を飲んだ。 「うまくおねだり出来たら、君の蜘蛛の糸が取ってくれるかもしれないよ?伊芙生」  廉は緩く腰を揺すりながら、伊芙生の耳元で囁く。そのまま耳や首を嬲るように舐め上げ、伊芙生はその度に甘い声を上げた。 「蜘蛛の糸?」 聞き覚えのある単語に思わず聞き返す。先日、図書館でしていた話を思い出した。 「この子は、自分を地獄から救ってくれそうな男を見付けては、蜘蛛の糸と呼んで入れあげる悪い癖があってね。君で何人めの蜘蛛の糸だったかな」  考えるようにして、伊芙生に巻かれた赤い紐の先端を弄ぶ。  そうしながらも、腰は緩急をつけて打ち付けられ、伊芙生は涎を垂らして喘ぎ声を上げた。  堪らないように傾げた白く細い首元が壮絶な色気を発している。 「君の前の蜘蛛の糸は、図書委員の先輩だったかな。学校に行かなくなって蔵に居座るようになってしまったので、止む無く転校してもらったよ。その前は、先生だったな。残念ながら精神を病んで辞められたけどね。その更に前はーーああ、同級生だったね。刃物を持ち出して、あれは大変だった。全く可哀想な男達だよ……自分こそ男を破滅させる地獄そのものなのになッ!」 「ッーーー!!」  廉が一際強く腰を穿った。と同時に伊芙生がビクンと仰け反って身体を震わせる。  縛られたペニスは反りたったまま変化はない。精を放たずイッたのだ。  廉がホラね、というように意味ありげな目線を護に送る。 「言っておくが、言うならば私も被害者なんだよ。この子ときたら小さな時から母親の乳は吸わなかったのに、私の精ばかり吸いたがった。蓮見の人間はどうもそういう気質らしくてね。この子の母親も、私が変えてみせると結婚したんだが、結局私が伊芙生に夢中になってしまって、出て行ってしまったよ。 本当に罪深い子だーー」  愛しくてしょうがないという様さまで、廉は伊芙生のふっくりとした薄紅色の乳首を捏ねる。伊芙生はむずかる子供のように身体を捩らせ、自分から胸を突き出した。 「あ、あっ、んっ、もっと、あッ!」 「ふふ、ほら、可愛いだろう。性交になると素直になるが、普段は意地を張っているのも私には可愛くて仕方ない。息子の反抗期は親なら嬉しいものだ。 和泉も可愛い息子だが、あれは割と理性的だからね。馬鹿な子ほど可愛いとはよく言ったもんだ……」 「ん、んん、ん……」  そう言って二人は深く口付け始める。繋がったまま、口内を犯されるように口付けられ、伊芙生は深い官能の為か小細みに震えている。  長い口づけから解放されると、その瞳は熱を帯び、眦から涙が溢れた。 「蜘蛛の糸君、さぁ、どうする?地獄に身を投じるのかい?もし伊芙生の肉体を救いたいなら、どちらにしてもココまで堕ちないと糸は届かないぞ」  それはどちらも地獄に堕ちるしかないと言っているも同然だった。 いや、まだ選択肢はあるーー。 ここで踵を返して、この蔵から出て行けばいいのだ。そのまま家に帰ってもう二度とこの家族とは付き合わなければいい。  純粋で守ってあげなければいけない伊芙生は何処にもいないのだ。  いたのは、和泉以上に色狂いの淫乱で、男の精を喰らって生きる淫蕩な魔物その者だ。      とても守るような存在ではない。  そう思って伊芙生を見ると、潤んだ瞳はドキリとする程澄んでいて、眦から一粒、二粒と流れる涙は蓮の花の雫のような美しさだった。 (これは罠なのだろうか?)  わざと儚く見せて、地獄まで誘い込もうとしているのかもしれない。  そうして、快楽という煉獄の地獄で、針の山の上で、狂ったように踊らされるのだ。 それでも、だからこそーー 護は意を決して、足を一歩踏み出した。 ーーー あとがき 彼が前と後ろ、どちらに一歩踏み出したかはご想像にお任せします。伊芙生は作中で何回か護が知らないうちにえっちしております(うち、一回はさんぴぃ) 反抗期終わったら、お兄ちゃんともさんぴぃするんじゃないかと思います。 読んで頂きありがとうございました。

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