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第2話
僕らが帰り支度をして二人で図書室を出ると、僕の父と校長先生が話しているところに遭遇した。
「やあ、伊芙生君。君のお父様にテニスコートの改装の件でご寄付を頂けるという事でお話ししていたんだ。蓮見さん、こちらが当学校の期待の星、伊達護君です」
校長先生が紹介すると、護はぺこりと控えめに僕の父に会釈した。
「やあ、君が伊達君だね。私は蓮見廉と言って、伊芙生の父親です。息子と仲良くしてくれているようで嬉しいよ。東京から素晴らしい生徒が転校してきたと聞いて、微力ながら応援させて貰えればと思い、校長先生にお話したんだ」
父はよく通る深みのある声で、そう言いながら大きな手を差し出し、護に握手を求める。並んでみると体格のいい護より更に父の方が長身だった。
三つ揃えのスーツを着こなす偉丈夫だが、大きな身体にそぐわぬ柔和な雰囲気がある父は、男女ともに引き寄せられる不思議な魅力がある。数々の女性が父に再婚を迫っているのを僕は知っていた。
「お父さん、格好いいのな」
校長先生と父が話している間、隣の護が内緒話のように話しかけてきた。
「僕と似てないでしょ」
「うーん、雰囲気は少し似てるかなあ、でも伊芙生の場合格好いいっていうよりも、綺麗ーー」
護が何か言いかけた途中で、校長先生がこちらを向いた。
「で、どうだろう?この後伊芙生君も一緒に校長室でお父様とお話するのは」
「是非、伊芙生の学校の様子なども教えて頂きたい」
二人の中では、もう決定していた事項らしい。僕がしおらしく、はい、と頷くのを満足そうに見ると、ふと思いついたように父が言った。
「そうだ。今日は伊達君に我が家で夕食を食べてもらってはどうだ?」
「え……いえ、そんな……」
「そうだよ。そんな事急に言っても、護が困るよ」
「なに、親御さんには私から説明するよ。日頃伊芙生がお世話になっているんだ。是非お礼がしたい。それに、伊芙生の様子、君にも聞きたいしね」
そう言ってウィンクされれば、護も強くは断れない。
「でも、この後校長先生とお話するんでしょ。護に待っててもらうのも悪いよ」
「いや、そんな、大丈夫だ。俺はまた図書室で待ってるよ」
「俺が先に護君と家に帰っておくよ」
突如、兄の和泉の声が割って入ってきた。いつの間にか後ろから僕と護の間に立ち、護の肩に猫のような仕草で白い手をそっと置く。
「兄さんーー」
「丁度俺も生徒会の仕事が終わって、今帰りなんだ。俺が我が家に護君を案内しておくよ。これでも生徒会長だし、有望な選手に話を聞いておきたいしね」
いいでしょ?と小首を傾げる兄は、恐ろしい事に確かに生徒会長を務めている。何故かと言えば、生徒会室を自由に使える権限が欲しかったからであり、生徒会役員全員と関係を持っているのは、まず間違いない。
「ああ、では和泉にお願いしようか」
「えぇ!?でも……」
渋る僕を見て、兄はにこりと笑って護と肩を寄せる。
「何か心配?大丈夫だよ。伊芙生の大事な友達なんでしょ?俺がきちんとおもてなしするからねーー」
含んだような言い方に、ますます心配が募ったが、護が大丈夫、と声をかけてきた。
「お兄さんも優しそうじゃん。俺、先に行って待ってるよ。伊芙生の部屋を捜索なんてしないから、安心して行ってこい」
悪戯そうな顔でそう笑いかけられ、これ以上なんと言ったらいいか分からない僕を尻目に、兄はさっさと護の手を引いて下駄箱に向かってしまった。
「さ、行こう。伊芙生」
父に促され、仕方なく校長室に向かう足取りは重く、僕の胸には暗雲が立ちこめていた。
※※※
結局、父と僕が我が家に帰ってきたのはとっぷり日が暮れた頃だった。
居間では家政婦の徳子さんが豪華な夕食を用意しておいてくれていたが、兄と護の姿はない。
「部屋にでもいるのかな?伊芙生、夕食だと呼んでおいで」
嫌な予感を覚えながら木造の階段を上った。
僕と兄の部屋は二階にあり、いまどき入り口も障子張りだ。
なので階段を上がっている最中で二人が何をしているのかーーすぐ分かった。
「ん、ふ、ーーん、おいひ、ん、はぁ、、、」
障子越しに、一人があぐらをかき、もう一人がその股間に顔を埋めている影が映って見える。
股間に顔を埋めている影はゆらゆらと前後に顔をうごかしていた。
ぴちゃぴちゃ、ぬちゃぬちゃという水音がこちらまで響いてくる。
「は、ん……ね、も……おっきいの、入れてほしいぃ、よぉ……」
影の臀部がもぞもぞと揺れる。影が重なってよく分からないが、どうやら尻に指を入れているようだ。誘うように揺れる動きは、障子越しにも淫猥だった。
僕は見ていられなくなり、階段を降りようと、きびすを返す。
すると、階下には明かりの乏しい暗闇の中、父がこちらをじっと見て佇んでいた。
「嫌なものを見たのかい?」
「……うん」
「可哀相にーーおいで、伊芙生」
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