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◇第1章 裸の王様◇  *第1話* 棘の鎧を身に纏え

 この世は誰かが創ったシミュレーションゲームなんじゃないだろうか。  退屈そうな神様が、欠伸をしながらチマチマとスマホを弄る姿が目に浮かんで思わず吹き出した。 「まるで今の俺みたい」    公園のベンチに腰掛け、手元のスマホを操作しながら青年がニヤリと笑う。画面に映し出されているのは、流行りのアクションパズルゲームだった。  つい今しがた始めたばかりだが、サラリーマンの月給を軽く超える額を課金したおかげで、希少な強キャラが既に揃っている。   大抵の苦難は金の力でどうにでもなる。  ゲームの中でも、リアルでも。  気怠そうに息を吐いた後、スマホから顔を上げ、昼休みを終えて近隣のオフィスに戻る賑やかな集団に眉をひそめた。麗らかな春の午後が喧騒で台無しだと幻滅しながら、公園内を行き交う人々を目で追う。 「どいつもこいつも、ノーマルのモブばっか」  まだゲームの思考を引きずったまま、フンと鼻で笑い「まあ、俺は最高ランクの超スーパーレアだけど」と、遠慮なく思えてしまう程度に彼の性格は捻くれていた。そして実際にそう言ってしまうのも頷けるほどの、容姿と地位を持ち合わせているのでタチが悪い。  自分にとってはエキストラにしか思えない通行人を眺めていたら、スーツを着た背の高い男と目が合った。男はかけていた眼鏡の位置を人差し指で直すと、無表情のまま一直線にこちらに向かってくる。 「お迎えに上りました、玲旺(れお)様。午前中ずっと休憩時間に充てられていたようですので、そろそろ社へ戻りませんと」  二十代後半くらいの男が、玲旺と呼ばれた青年の横で(うやうや)しく片膝を付いた。  綺麗に磨かれた爪は清潔感があったが、同時に神経質そうにも見えた。

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