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*第4話* 渋谷のヴァンパイア

 渋谷駅から少し離れた神南エリアには、セレクトショップが点在していた。どの店も個性的でセンスが良く、近所に住んでいながら今まで渋谷に興味のなかった玲旺でさえ、オフの日に改めて来たいと思えた程だ。  そのうちの一軒、ガラス張りで洒落た外壁の店舗の前で久我が足を止める。「ここだよ」と玲旺に笑いかけ、開け放たれた入り口をくぐった。   扉の木枠は、わざと塗装が剥がれて掠れたような風合いに仕上げられている。焦げ茶色の船の甲板みたいな床に、レンガの壁。錆加工を施した鉄のシャンデリア。吹き抜けになっている高い天井に、店の中央には螺旋階段。大きな窓からは太陽光が差し込み、程よく店内を照らしている。  インテリアだけ見るとアンティーク調だが、取り扱う商品は新進気鋭なデザインも多く、とてもカラフルだった。かと思えば、上品で質の良い服も陳列している。そのアンバランスさが絶妙で、かえってそれぞれの商品の良さを引き立たせていた。 「すっげえ……センスいいな」  玲旺は思わず呟きながら、店内を見回した。 「あら、嬉しい! 素直な子は大好きよ。あと、可愛い子も大好き。つまり、キミは僕のドストライク」  玲旺は声のした方を振り返り、すぐ後ろに立っていた人物を見上げて息を飲んだ。  真っ白い髪は前下がりのボブカットで、右側の髪だけ耳に掛けている。微笑みながら首を傾げると、大振りのピアスが揺れた。真っ赤な口紅と、赤いカラーコンタクト。肌は白く、黒いドレスシャツに黒いシングルのベストを合わせていた。足元はゴツい黒のエナメルブーツで、ガーゼ素材のスカートと意外と良く合っている。  ゴシック風で個性的な装いは、まるで吸血鬼だと玲旺は思った。  黙っていれば長身で華奢な女性のようだったが、低い声と喉仏で男性なのだと解る。 「こんにちは、氷雨(ひさめ)さん。今日はお時間を頂きありがとうございます」 「なぁに? 久我クンの秘密兵器? この子を差し出されたら、ちょっと心が揺れちゃうわ」 「やめてくださいよ、部下を手土産にしたりしませんから。今日から営業部に配属になった桐ケ谷です」  言いながら久我が玲旺に視線を送る。自己紹介を促されているのだと理解して、玲旺は一歩前に進み出た。

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