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見目麗しい後継者②
「俺はこのピンクにゴシック体の方も良いと思ったけどなぁ。確かに少しカッコ良過ぎるけど、華やかで目を引くだろ?」
「これ単体なら良く見えるけど、他のブランドからも案内状が来たら埋もれるぞ。似たような感じの案内状多いから。あ、多いですから」
いつの間にか敬語を忘れていた玲旺が慌てて取り繕う。鈴木がふふっと笑った後、遠慮がちに口を開いた。
「案内状をよく貰う桐ケ谷さんのアドバイスは的確で心強いですね。私もこのツタ模様が良いと思います。でも、少し地味じゃないかと不安で。色味が大人し過ぎると言うか……」
ふわっと柔らかい雰囲気の鈴木は、まさにターゲット層ド真ん中の女性だった。その鈴木が地味だと感じた点は看過できない。
「でしたら今の茶系をやめて、用紙を白に、ツタの色をマゼンダピンクに変更するのはどうでしょう。それなら久我さんの言う華やかさも取り入れられると思います」
「ああ、それは良いな」
玲旺の提案を即座に採用した久我が、新しくサンプルを作るように指示を出した。吉田は素早くメモを取り、鈴木は「可愛くなりそう」と、嬉しそうに手を叩く。自分の意見がすんなり通ったことに玲旺は驚いた。
「え、いいんですか? まさか俺が社長の息子だからって気を使ってないですか?」
疑うような、それでいて怯えているような表情で玲旺は三人の顔を順番に見た。久我が首を振りながら大袈裟にため息をつく。
「あのなぁ。展示会は真剣勝負の場だぞ。お前にゴマすりしてる場合じゃないんだよ。良いと思ったから採用したんだ。もっと自信持て」
自信を持てと言われて嬉しいと思いつつ、「真剣勝負の場」がピンとこない玲旺は首を傾げた。吉田と鈴木は久我のストレートな物言いに、玲旺が怒り出さないかとハラハラしている。
そんな様子を久我は一瞥すると、三人に言い聞かせるようにゆっくりと話し出した。
「次の展示会は複数のブランドが参加する合同展示会だ。アパレルは斜陽産業なんて揶揄される今、どこも取引先の新規開拓に必死なんだよ。一見華やかな場だが、熾烈な戦場だ」
なるほどと思いながら、ごくりと唾を飲み込んだ。吉田と鈴木も同じように真剣な表情で久我の話を聞いている。
「桐ケ谷は自分が社長の息子だってこと、一旦忘れろ。吉田も鈴木も、桐ケ谷を特別扱いしないように。コイツはただの新人だ。わかったな?」
「あの、質問があるのですが」
ソロリと小さく挙手したのは吉田だった。色白で眼鏡をかけていて、気の弱そうな男性だ。吉田の前には今日までに調べ上げた資料の束が積み上がっている。
「桐ケ谷くんを特別扱いしないのは承知しました。でも、社長令息の肩書が発揮できる場で利用させて貰うのはアリでしょうか?」
楽しそうに久我が「例えば?」と先を促す。
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