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*第9話* 見目麗しい後継者
「桐ケ谷玲旺です。足を引っ張らないように頑張りますので、よろしくお願いします」
再び顔を上げた時、二人の雰囲気が少し和らいだような気がして胸を撫で下ろした。噂で聞いていたより親しみやすいと思ってくれたようで、吉田と鈴木は玲旺より二つ年上だと自己紹介した後、気さくに話し始める。
久我と一緒に仕事ができる喜びと、久我がいかに優秀かということを、二人は競うように語った。玲旺も全面的に同意しながら「うんうん」と相槌を打つ。「そういうのは、俺のいないところで話せ」と、会議室の扉を開けながら久我が照れ隠しのように咳払いを一つした。
「案内状のサンプルを確認する前に、コンセプトを桐ケ谷に軽く説明しておこうか」
少人数用の会議室で、ホワイトボードを背にして久我が着席すると、久我を囲むようにそれぞれも座った。円いミーティング用のテーブルに広げられた資料に玲旺が目を落とす。
「ターゲットは二十代から三十代前半の女性。オフィス内や取引先の企業訪問はもちろん、デート先のレストランでも浮かない、エレガントな雰囲気を持つスマートカジュアルだ」
久我の説明に、納得したように玲旺は頷いた。
「女子アナが着てる服みたいな?」
「そう。そんな感じ」
正しくイメージが伝わり久我は満足そうに頷くと、二種類の用紙を取り出した。
「『忌憚のない意見を聞かせてほしい』って言ったら、桐ケ谷、この二種類の案内状を見て何て答える?」
「えっ、テスト?」
「いやいや、違う。ホントにお前の意見が聞きたいだけ」
だったらそう言えばいいのにと思いつつ、やはりどこか試されているような気がして、並んでいる便箋サイズの案内状を真剣な眼差しで見つめる。
「正直どちらもパッとしないと言うか……。右の方はマゼンダピンクの用紙に白のゴシック文字でカッコいいけど、スマートカジュアルの雰囲気とは程遠いし、左はエレガント過ぎてターゲットの年代に敬遠されそう。地図は見易くていいと思うけど」
「なるほど、どちらもイマイチか。吉田、前回新しく出た案のサンプル出来てる?」
吉田が頷きながら、新たに机の上に案内状を一枚置いた。「あっ、これ凄くいい」と、玲旺がぐっと身を乗り出す。
薄茶の便せんにフォーチュンのマークである四つ葉があしらわれ、濃い茶色のツタ模様が文面を縁取る様に刷られている。童話の一ページのようだが子どもっぽさはなく、上品で清楚だった。まさにスマートカジュアルを体現したようで丁度良い塩梅だ。
久我が顎に手を添えて、考え込むような仕草をする。
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