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『熱でもあるんじゃないの』②

「あなたにもリーダーの素質が充分あると、私は考えております。立派に成長された玲旺さんの元で働くのが、今からとても楽しみです」  そんな言葉をかけて貰えると予想していなかったので、驚き過ぎて目を逸らしてしまった。  営業部のフロアに着いて、エレベーターの扉が開く。「じゃあ」とだけ告げてそのまま降りようとした玲旺の頭に、久我の言葉が浮かんだ。 『こんな時は何て言うの?』  一歩踏み出した玲旺は、昨日までの自分と決別するような気持で振り返った。 「藤井、いつもありがとう。あと、今までごめんな。俺、頑張るから」  言った後、いつもの癖で敬語を忘れていたことに気付き、首をすくめた。それでも扉の向こうにいる藤井には、敬語かどうかなんて些細な事のようだった。驚きながらも嬉しそうに目を細め「夢のようです」と、言うと同時に扉が閉まる。心が嘘みたいに軽くなって、景色がまるで違って見えた。  玲旺は誰かとすれ違う度に「おはようございます」と声を掛けながら進む。言われた方は一瞬ぎょっとしていたが、戸惑いながらも挨拶を返してくれるのが、ことのほか嬉しかった。  喫煙ルームの隣にある休憩スペースで、自動販売機の前に立つ久我の姿を見つけて玲旺が駆け寄る。 「おはようございます」  久我は驚いたように目を見開いたが、直ぐに優しく微笑んだ。 「おはよう。今日もよろしくな」  嬉しそうに頷く玲旺に、久我も目じりを下げる。玲旺の方に手を伸ばしかけたが、すぐにその手を引っ込めた。どうやら頭を撫でようとしたが、人目がある場では遠慮したらしい。  別に構わないのに。むしろ撫でてほしかったと思いながら、営業部に向かう久我の後をついて行く。 「今日は来月末に行われる展示会の準備だ。案内状のデザインを決める。吉田、鈴木、お待たせ。ミーティングを始めようか」  声を掛けられた男女二人が資料を小脇に抱え、会議室に移動するため席から立ち上がった。こちらに向かって歩みを進め、久我の後ろにいる玲旺に気付いて急に緊張した面持ちになる。 「今日から一緒に展示会のチームに入ってもらうことになった桐ケ谷だ」 「噂の御曹司だ」と心の声が聞こえてきそうなほど戸惑う二人に、昨日までの自分と違う事を知ってほしくて、玲旺は慌てて頭を下げた。

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