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熾烈な戦場②
フォーチュンのブースは盛況だった。
目玉商品を一点に絞ったことでメッセージがより強調され、森の隠れ家風なレイアウトも相まって、通行人の目を良く引いた。玲旺は何人ものバイヤーに展示品についての質問をされたが、内心冷や汗をかきながらも上手く受け答えが出来てほっと胸を撫で下ろす。
商談スペースには得意先の百貨店も訪れ、個人からのオーダーも次々入った。
「学園祭みたいで楽しい。なんて言ったら、学生気分じゃ困るって怒られちゃうかな」
肩をすくめた鈴木の言葉に、玲旺はうーんと考えるような、曖昧な笑みを返す。
「俺、学園祭って出たことなくて。何が楽しいんだろうって馬鹿にしてたけど、そっか、こんなに楽しいものだったんだ」
その答え方が寂しそうに見えたのか、鈴木と吉田が玲旺の肩を同時に叩く。
「じゃあ、青春取り戻そう!」
「桐ケ谷くん、今日を思い切り楽しもうね」
玲旺は嬉しそうにクスクス笑いながら頷いた。顧客と直に接し、手応えを得る。目に見える結果が楽しくて仕方がなかった。
「ねえ、ここのブースにモデルはいないの? 実際に着て歩いている所を見たいんだけど」
声を掛けられて玲旺が振りかえると、五十代くらいの女性がブースをキョロキョロ見回していた。気が強そうだが品がある。
玲旺がすまなそうに「申し訳ございません。モデルの用意はしておりません」と答えても、女性は引き下がらなかった。
「じゃあ、あなたが着てみてくれない?」
「えっ、俺……じゃなくて、私がですか?」
「そう」
言いながら女性は木製のハンガーラックから服を物色し始める。
「これとこれに……これを合わせてみてくれる?」
差し出された女性物のスカートを見て玲旺はギョッとした。見かねた鈴木が申し出る。
「恐れ入ります。もし差支えがなければ、私が試着してもよろしいでしょうか」
「うーん。ありがとう、でもごめんなさいね。残念だけどあなたじゃ背が足りないわ。大丈夫よ。その子なら、顔は中性的だし女性物を着てもイメージは掴めるから」
そういう事じゃないんだけどな、と思いながら助けを求めるように玲旺は久我の姿を探す。こんなに強引な要求を躊躇いもせずにするなんて、もしかしたらファッション業界で名のある人なのだろうか。
玲旺はブースの奥、壁際に立つ久我を見つける。久我は腕組みをしたままこちらを眺めるだけで、助け舟を出してくれる気配はない。「フォローするって言ったくせに」と心の中で毒づきながら、玲旺は女性に視線を戻した。
もし大手のバイヤーだったり、雑誌の記者だったりしたら粗相するわけにはいかないな。
そう考えた瞬間「いや、違うだろう」と玲旺は首を振った。例えこの人が無名の小さなショップ店員だったとしても、実際に歩いた時の服の動きを知りたいと思うのは、正当な要求だし、叶えてあげたい。
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