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格の違いを見せつけろ③
「何だ、すっかり大人しくなっちゃって。この前は、全身の毛を逆立てて一生懸命威嚇してる子猫ちゃんみたいで可愛かったのに」
残念。と言いながら、ドレープの綺麗なブラウスを手に取った。
「緑川学長が選んだ服、俺じゃなくて氷雨さんに着て貰えばよかった。何でもっと早く来てくれなかったんですか」
「僕のモデル代は高いよぉ? それにしても、キミはちょっと見ない間にかなり成長したんだね。正直、フォーチュンはもう終わったなーって思ったけど、見直したわ」
「その節は……申し訳ありませんでした」
へぇ。っと氷雨は驚いた様に目を見開く。素直に玲旺が謝るとは思っていなかったようで、面白そうに目を細めた。
「紅林はキミと張り合うつもりでいたみたいだけど、今日は格の違いを見せつけたね。そう言えば、ジョリーのブースは見た?」
「忙しくて、まだ……」
頭を掻いた玲旺に、わざわざ行くことないわよ。と氷雨は言い捨てる。
「ブースに立ち入る気にもならないから、通りすがりに通路から見ただけだけど。前のシーズンに流行ったフォーチュンのシフォンスカートの模倣品をドヤ顔で展示してて、さすがに引いたわ。遅かれ早かれあそこは廃れるわね」
手にしていたブラウスをラックに戻すと、氷雨は玲旺の顔を覗き込む。
「それより、さっきの女装。お化粧もウィッグもナシで、あんなに可愛くなるから興奮しちゃった。ねえ、これが終わった後、時間取れない? 二人きりになれる場所に行こ? 明日はお休み? 朝までゆっくりできる?」
じりじりと距離を詰められ、氷雨の人差し指が玲旺の顎に触れる。
「あら、梅田君?」
商談を終えた緑川に声を掛けられ、氷雨の肩がビクッと跳ねた。
「やだ、せんせぇ。本名で呼ばないでよね」
口を尖らせた氷雨は動揺を隠すように、腰に手を当ててモデルのようなポーズをとる。
「相変わらず元気そうね、色んな意味で。また大学にも遊びにいらっしゃい。今度、講義の依頼をさせて貰うわね」
「あら、嬉しい。お待ちしてますわ」
「お知り合いだったんですか?」
旧知の仲のようにポンポンと続く会話に、玲旺は二人を見比べながら問いかけた。
「もー。キミは本当に僕に興味ないね? 僕のプロフィール見てよぉ。僕、桜華大を優秀な成績で卒業したんだから」
本当だよ? と言いながら、さりげなく玲旺の髪を撫でる。首を傾けて避けながら、玲旺は「凄いですね」と抑揚のない声で褒めた。
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