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格の違いを見せつけろ④
「でも、せっかく芸能科を新設するのに、制服は既製品のデザインにするんですね。ちょっと意外」
氷雨は髪を撫でるのを止め、今度は玲旺の頬をつんつん突きながら緑川に視線を向けた。緑川はその質問は想定内だと言うように頷く。
「あぁ、学生たちのコンペで決める案もあったんだけどね。やっぱり、老舗の一流メーカーが手掛けた服を普段から身に着けるのも良いんじゃないかと思って。国内ブランドで探していたら、フォーチュンはイメージにぴったりだった。デザインも縫製も流石だわ」
「自分の会社を褒められるのは、こんなに嬉しいものなんですね。今後も期待に応えられるように、精進します」
嬉しさを滲ませて微笑む玲旺に、氷雨はやれやれと肩をすくめた。
「せんせぇ、桐ケ谷クンこんなにいい子に見えるけど、一ヵ月前はジョリーの坊ちゃん並みにお子様だったのよ。でもまぁ紅林と違って、桐ケ谷クンはあの頃もちゃんと自社製のスーツを着ていたから、一緒にしちゃ悪いか」
そう言われて、ジョリーのメンズブランドではなく、イタリア製のスーツを着ていた紅林を思い出す。
「別に、俺は自社ブランドだから無理して着てるわけじゃないですよ。他のブランドより一番着心地が良いし、しっくりくるから着てるんです」
「だから、そういう所よ。キミは歩く広告塔なワケ。キミの中で一番は、フォーチュンのスーツだって自信を持って言えるでしょう? 自社製を着てないジョリーはそのレベルに達していないって、海外ブランドに敵わないって白状してるようなものじゃない」
納得したように玲旺は深く頷いた。
「さて、私はもう行くわね。久我さん、また後日改めて」
「ええ、お待ちしております」
いつの間にか玲旺の隣にいた久我が、緑川に向かって丁寧にお辞儀をする。所作が綺麗だなと見惚れていたら、緑川から右手を差し出された。
「桐ケ谷さん、今日はお会いできて嬉しかったわ。これからもよろしくね」
「こちらこそ。本日はありがとうございました」
玲旺が差し出された手を取って握手を交わすと、氷雨が唇を噛みしめて身をよじらせる。
「ずるいずるい。僕も桐ケ谷クンと手をつなぎたいのに」
割り込むように玲旺の手を握り、呆気に取られているうちに氷雨の唇が玲旺の頬に触れた。
「またね」
玲旺から離れる瞬間、氷雨の瞳が潤んだように揺れる。握っていた手をするりとほどくと、氷雨はバイバイと笑顔で手を振った。
「あなた、随分と梅田君に気に入られているのね。ああ見えて彼、結構孤独なのよ。仲良くしてあげてね」
氷雨に聞こえない程度の小声で言うと、緑川が教師の顔に戻ってわずかにほほ笑む。そのまま氷雨の後を追って緑川もブースを後にした。
満足感と同時にどっと疲れが押し寄せる。それでも、空港で偽物を鑑定させられた時に比べたら、何倍も心地良いものだった。
「桐ケ谷、こっち」
ホッとしたのも束の間、パーテーションの陰から手招きする久我の表情が怒っているように見えて、玲旺は何かマズイ事をしでかしただろうかと焦りながら駆け寄った。
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