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夢だったかもしれない③

 声に出してから直ぐに、なんて怖い事を聞いてしまったんだろうと組んだ指に力を込めた。   この恋が今ここで終わってしまうかもしれない。そんな可能性に怯えたが、久我はそれにも「ごめん」と答えるだけだった。  質問に対してYESなのかそれとも曖昧にぼかしたいのか、久我が何を考えているのか全く解らず、玲旺は虚しくなって指先の力を緩める。手の甲に喰い込んだ爪痕をさすりながら、玲旺がハハッと乾いた笑いを漏らした。 「いいや。ここで止めて。やっぱり電車で行く」 「もう少しで着くよ」 「いい。今すぐ降りる。何も答えて貰えないなら意味ない。沈黙だけ続く車内なんて、お互い拷問みたいで嫌でしょ?」 「……わかった。ごめんな」  何回謝る気だよと、諦めたように玲旺は俯く。重い空気のまま久我が路肩に車を停めてハザードを焚いた。 「俺、明日見合い行くからね。いいんだよね?」    降りながら玲旺が念を押したが、久我は逃げるように目を伏せた。 「良いも何も……。俺は桐ケ谷の未来に口出しできる立場じゃないだろう」  ハンドルを握る手に力がこもり、ギリッと音を立てる。 「俺の未来か。なるほどね」  納得したように玲旺は小さく呟いた後、力いっぱい車のドアを閉めて歩き出した。  自分は近い将来、フォーチュンを統べる立場になる。久我の実力だったらその頃には、執行役員くらいにはなっているだろう。それでも結局、社員である事に変わりない。  久我の目には「桐ケ谷玲旺」ではなく、「次期社長」として映っているのだろうか。  見合いをしてどこかの令嬢を娶り、会社を継いで発展させ、さらに盤石なものにして子に譲り渡す。もしそんな順風満帆な玲旺の人生が見えているなら、確かに口出しできないかもしれない。安泰なはずの人生を狂わせる勇気なんて、誰だって持てないだろう。 「じゃあ手も出すなよって感じだけど」  小石でもあったら蹴り上げたい気分だったが、綺麗に舗装された歩道にそんなものは見当たらなかった。  久我の中にある自分に向けられた好意は、きっと気のせいじゃない。だけど、玲旺の未来を邪魔する訳にはいかないと揺れているのだろう。だったらいっそのこと、もっとガンガン揺さぶってやろうか。 「明日本当に見合いをしたら、久我さんどんな顔するんだろう」  もっと葛藤すればいいと思いながら、玲旺は今来た道を振りかえる。当然の事ながら、久我の車はもういなかった。

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