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『恋は盲目』②

 やっぱり余計なお世話だよなあと気まずそうに玲旺は頭を掻いたが、彼女は 「桐ケ谷さんの恋も、応援してます」と嬉しそうに顔をほころばせてその場を後にした。 「俺の恋、か」  そうだ、これは恋だ。  ふわふわとして甘酸っぱい、可哀想な自分にさえも酔える、青臭いただの恋だ。  だけどここから先は知らない。  誰かを想うと同時に痛みが伴ったことなんてなかった。今のうちに引き返した方が良いのかもしれない。  この痛みが増す前に。  わかっていながら「会いたい」と願ってしまう自分の中の矛盾に苦笑いした。久我がもし、この見合いに少しでも妬いてくれたら、それだけで満足してキッパリ諦められるだろうか。それとも想いが暴走して、更に傷を深めてしまうのだろうか。 『恋は盲目』とはよく言ったものだと思いながらスマホを取り出した。面倒臭いが見合いの結果を父親に告げておかないと、彼女にも迷惑がかかってしまう。そうして画面に目を向けて固まった。 「え、久我さん?」  久我からのメッセージを知らせる表示に、鼓動が早くなる。  こんな時に何の用だろうと、一時間以上前に届いていたメッセージを開いた。 『見合いが終わったら連絡ください。何時になってもいいから』  気付くと久我に電話をかけていた。足は勝手にタクシー乗り場へと向かっている。コール音がもどかしく、早く早くと気持ちが急いた。 『もしもし。……ごめん、見合いの邪魔する気はなかったんだけど、どうしても気になって。電話していて大丈夫?』  電話に出た久我は、酷く躊躇っているように感じられた。 「さっき終わったとこ。どうしたの?」 『あのさ。今どこにいる? 少しでいいから会えないかな』 「それなら久我さんの家、行って良い? タクシーなら直ぐだから」  少しの間沈黙が続いて、久我が悩んでいるのが電話越しでも解った。 『俺がそっちに行くよ。外で会おう』 「ううん。嫌だ、久我さんの家が良い。って言うか、もうタクシー乗っちゃったし。マンションに着いたらまた連絡するから」  本当はまだタクシーに乗るどころかロビーにすら辿り着いていなかったが、玲旺は一方的にまくしたてた。久我の「わかった」と言う声を聞いてホッとしながら電話を切る。  嬉しい、と言う感情で爆発しそうだった。  久我が会いたいと言ってくれた。見合いを気にしてくれていた。  嬉しい。嬉しい。  やっと気持ちに応えてもらえる。  飛び乗ったタクシーに行き先を告げ、思った以上に浮かれている自分の声に驚いた。久我のくれたメッセージを開いて指でなぞり、赤信号に捕まる度に恨めしく信号機を睨む。

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