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『恋は盲目』③
漸く着いたマンションのエントランスでインターフォンを押し、モニター越しに映る自分の顔がにやけないようにグッと奥歯を噛んだ。
『早かったな』と久我は驚きながら自動ドアを解錠したが、玲旺は遅いくらいだと速足で奥へ進む。エレベーターの到着を待つ時間さえもどかしい。
玲旺が部屋の前に着くと、チャイムを鳴らす前に扉が開いた。普段見慣れたスーツではなく、クルーネックのカットソーに細身のデニム姿が新鮮でドキリとする。
扉は薄くしか開かれず、玲旺は中に入れないまま廊下から久我を見上げた。久我は苦しそうに眉を寄せ、唇を噛んで目を伏せる。
「家じゃなくていいだろ。腹減ってない? 外で飯食おうよ」
「嫌だってば。中に入れてよ」
引き下がらない玲旺に、久我は困ったように首筋をさする。この期に及んでまだ迷っているのが手に取るようにわかった。
「本当に部屋に入れたくなかったら、エントランスの前で待ってればよかったじゃん。でも久我さんは部屋にいて、今こうしてドアを開けた。もう、それが全てじゃない?」
業を煮やして玲旺が扉に手をかけ、強引に押し入ろうとする。久我が慌ててそれ以上扉が開かないようにドアノブを押さえた。
久我は何か言いかけて一度口を閉ざし、片手で顔を覆う。ゆっくり息を吐きだした後、玲旺の顔を見ないまま再び口を開いた。
「桐ケ谷、ごめん。俺……今から最低なこと言うけど、不愉快だったらこのまま帰って」
「いいよ。言ってみろよ」
強がったものの、内心何を言われるのかビクビクしながら身構えた。久我が最低と言うのなら、きっと本当に最低なんだろう。目をつむった久我は眉間の皺を深める。
「今部屋に入れたら、俺は間違いなくお前を抱き潰す。自制できる自信がない。責任は一つも負えないのにだ。この先お前と付き合う気はない。恋人にはなれない。なのにお前は一方的に搾取されるだけ。そんなの、耐えられる?」
衝撃的な単語が続いて、玲旺の思考が停止しそうになる。思った以上に最低だ。
「えっと……俺は、ヤリ捨てられるってこと?」
久我の言うことを何とか理解しようとした結果、出てきた言葉はそれだった。
「そう。そんな扱い、お前に相応しくないよ。俺はこれからもお前を弟として大事にしたい。それじゃダメか?」
「うん。それじゃ……ダメだ」
酷いことを言われているのに、胸の奥が痛いほど疼く。今まで燻っていたものに一気に火が付いて燃え上がるようだ。久我と一夜でも結ばれるなら、傷ついてもかまわない。
「今だけでいい。最低でもいい。お願い、俺を抱いてよ」
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